築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

労作時の呼吸困難、めまい

32歳男性、労作時の呼吸困難、めまい

 

32-Year-Old Man With Dyspnea on Exertion and Dizziness. Mayo Clin Proc. 2020;95(4):e37‐e42.

https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(20)30039-2/pdf

 

病歴より

#労作時の呼吸困難、軽度の頭痛、倦怠感を主訴に来院

#熱心なランナーで、パーソナルトレーナーとして勤務しているジムを所有していた

#過去の既往:15歳無症候性のPSVTで無治療で改善、腰椎・仙椎の神経根症状は理学療法や運動で治療していた

#神経根症状で必要なときにイブプロフェンを内服する

#ミネソタで育ち、他の地域へは移動なし

#3日前、3kmを無症状で走ることができた
#2日前に軽度の運動で息切れを自覚した
#1日前にレスリングのコーチをしていたときに、意識が朦朧とし気絶しそうになった
#この5分間のエピソードは視野狭窄と関連し、意識を失うことなく自然に改善した。

#顎や肩、背部に放散する胸痛はない

#動悸、嘔気、発汗、体重減少、下肢の浮腫、夜間の呼吸困難や起坐呼吸なし

#突然死の家族歴なし
#マダニに噛まれたり、関節痛、発熱、皮疹のエピソードはなし

 

 

 

身体所見より

**********************

#意識清明、36度、心拍数 43回・整、血圧 121/68、呼吸数 16回、SpO2 99%(RA)、BMI 25.1

#頭、目、鼻、咽頭に異常なし

#頸静脈怒張やリンパ節腫脹なし
#心音:雑音なし、整
#心尖拍動を触知する
#呼吸音清明

#腹部:腸蠕動音正常、右上腹部に軽度の圧痛あり、臓器腫大なし、筋性防御や反跳痛なし
#四肢:温かい、チアノーゼや浮腫なし

 

 

検査所見より

*******************

#心室調律、完全房室ブロック、完全左脚ブロック、左軸変移、QRS延長(184msec)

#K 4.9、NA 139、Mg 2、BUN 17、Cre 1.31、糖 96、Hb 14.1、WBC 6800

#lactate、リパーゼ、肝機能は正常
#ESR 12、CRP 14.7

#フェリチン 128

#トロポニンT <6 (受診時と2時間後も)

#胸部X線で正常上限の心臓の大きさ、肺浸潤影なし

 

 

 

#診断に迫る検査は?

 

 

診断:心臓ライム病

治療:セフトリアキソン2g 1日1回

 

転機

入院2日目、2:1の房室ブロック、左脚ブロック、

入院3日目、1度房室ブロック

となった

 

テーマ:完全房室ブロックの鑑別

完全房室ブロックの50%は特発性

急性心筋梗塞の7%

サルコイドーシスの5%は心臓のみ

アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス、甲状腺、高K血症、先天性心疾患なども鑑別である

新生児のCHBの90%は抗SSA抗体・抗SSB抗体陽性のシェーグレン症候群の母親から生まれた新生児である

医原性は、Ca blocker、アデノシン、ジゴキシン、心臓術後、カテーテル関連など

 

 

振り返り

・マダニに噛まれたり、関節痛、発熱、皮疹のエピソードはなしという点が目眩しだった

 

 

Next Step

・ライム病について

 

 

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繰り返す腹痛、血便

89歳男性、アメリカ、繰り返す腹痛、血便を主訴に来院。

Case 8-2020: An 89-Year-Old Man with Recurrent Abdominal Pain and Bloody Stools. N Engl J Med. 2020;382(11):1042‐1052.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc1913476

 

1回目の入院より

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#2年前に右鼠径ヘルニアの手術を受けた
#その後、右下腹部に間欠的な痛みを自覚

#4ヶ月前、排便前の失神を伴う、びまん性の腹痛を自覚
#両側の下腹部に圧痛があり、胸骨左縁に漸増漸減性収縮期雑音(Levine 2/6)を聴取
#血液検査

Hb 11.7、WBC 10140(好中球 72.8%、リンパ球 17.9%、単核球 4.4%、好酸球 4.1%、好中球杆状球 0.6%)、血小板 15.2万、BUN 35、Cre 1.56、Alb 3.8

#腹部と骨盤のCT検査で、下行結腸とs状結腸の憩室症があり、遠位下行結腸に限局性の出血と壁の肥厚が認められた

#大動脈と大動脈枝に動脈硬化性変化を認め,下腎動脈に36mmの瘤を認めた

#胆嚢と総胆管に小さな放射線不透過性結石を認めた

 

緩くて血の混じっていない便を伴う便通が数回あり、腹痛は改善した。

シプロフロキサシンとメトロニダゾールの経験的経口投与 が処方され、入院3日目に退院した。

 

 2ヶ月後、3週間の進行性の血便と、睡眠を妨げるほどの痙攣性のびまん性腹痛があり、再入院となった。

 

2回目の入院より

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#排便前の腹痛が最も悪く、1日5回生じた

#排便中の血液量が増加した

#発熱なし、食思不審なし、嘔気嘔吐なし

#身体所見では下腹部に圧痛を認め、直腸診では赤褐色の便があり、便潜血は陽性であった
#血液検査

Hb 8.8、WBC 5590(好中球 52.3%、リンパ球 27.5%、単核球 10.4%、好酸球 8.9%、好中球杆状球 0.7%)、血小板 10.2万、BUN 27、Cre 1.32、Alb 3.6

2単位輸血した

アスピリン中止、便培養を提出

#腹部骨盤造影CT:直腸・S状結腸の長く続く円周性の壁肥厚と憩室炎を伴わない遠位下行結腸の憩室症

 

シプロフロキサシンとメトロニダゾールの経験的経口投与 が処方され、入院2日目にCD腸炎トキシンが陽性になったためシプロフロキサシン中止とした

 

入院3日目、腹部症状が続き、1日4・5回血液と粘液便がでた
メトロニダゾールを中止し、バンコマイシンを経口投与した

入院6日目、排便回数が1日2回に減り、2週間のバンコマイシン投与し退院とした

 

退院して2週間後、1日4-6回に排便が増え、腹痛の伴わない血性の排便であった

 

 

3回目の入院より

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#身体所見では両側下腹部に圧痛あり
#グアイアック陽性、CDは陰性

#便の細菌培養では正常な腸内細菌のみ

Hb 11.3、WBC 8030(好中球 78.2%、リンパ球 17.4%、単核球 2.6%、好酸球 0.9%、好中球杆状球 0%)、血小板 12.9万、BUN 31、Cre 1.79、Alb 3.5

#入院5日目、下部消化管内視鏡検査では、

S状結腸にびまん性の出血、紅斑、うっ血、侵食性、易出血性の粘膜を認めた

自然に出血し、仮性ポリープを認めた

#生検では、表面の侵食のある、好中球による陰窩の炎症、陰窩の減少があり

著名な活動性の慢性大腸炎の所見を認めた

#蜜になったリンパ形質細胞の粘膜固有層の浸潤あり

#免疫染色にてCMV小体を認めた

ガンシクロビルで加療を開始

治療後4日間は、排便の回数は変わらなかった、血性の排便回数は減った

#間欠的な食思不審、痙攣のある下腹部痛が出現した

ガンシクロビルをバラガンシクロビルに変更した

変更後の6日間、排便が1日5回から2回に減少し、食思不審、下腹部痛は改善し

患者はリハビリ施設へ退院した

 

2週間後、患者は持続的な、緩い、黄色の便臭のある排便を認めた

1週間後血便が再発し、翌週に血便の頻度が増加し、当院に再入院した

 

4回目の入院より

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#食思不審、3kgの体重減少、左下腹部痛、全身の脱力の訴えあり

#発熱なし、他の部位の出血なし、泌尿器、心肺、筋骨格系、皮膚に症状なし

#リハビリ施設では消化器症状のある入所者との接触はなかった

#病歴は冠動脈疾患、中等度の大動脈狭窄、高血圧、左室肥大、慢性腎不全、緑内障、甲状腺結節が特徴的であり、大動脈冠動脈バイパスグラフト術を受けていた。

#常用薬:バルガンシクロビル、シンバスタチン、コレカルシフェロール、ミルタザピン、マルチビタミン剤、ラタノプロスト点眼薬、ロペラミドとジフェノキシル酸塩、アトロピンであった、常用薬による有害事象はなかった

#軍人を退役後

#渡航歴なし、喫煙は30年前、飲酒や違法薬物はなし

#家族歴:母親は冠動脈疾患を患っている、彼の父親は脳卒中を患っている

#感染症や自己免疫疾患の家族歴はなし

#体温36.1℃、心拍数 89回、血圧117/58 mmHg、SpO2 98%

#虚弱老人で、口腔粘膜が乾燥、歯が失われている、喉頭咽頭は問題なし

#胸骨左縁に漸増漸減性収縮期雑音(Levine 2/6)を聴取

#右下腹部に限局する圧痛あり、腸管拡張なし、反跳痛なし、筋性防御なし、臓器腫大なし

#直腸診では少数の外痔核あり、亀裂や腫瘤はなし、わずかに直腸の緊張が緩い、便潜血は陽性、粘液の便が付着

#末梢動脈は触知できる、皮疹はない

#その他の所見は正常

#電解質、乳酸、ビリルビン、アミラーゼ、リパーゼ、トロポニンT、肝機能検査は正常、Hb 9.4、WBC 9670(好中球 76%、リンパ球 15%、単核球 2.7%、好酸球 0.9%、好中球杆状球 8.8%)、血小板 10.3万、BUN 36、Cre 1.32、Alb 2.3、CRP 263、ESR 117、IgG 1092、IgA 565、IgM 12、Mタンパクなし

#CDトキシン、シガトキシン陰性

#寄生虫の虫体や虫卵は陰性
#Entamoeba histolytica抗体陰性

#造影CT:びまん性の腸壁肥厚と直腸および大腸全体の炎症性変化

#石灰化したアテローム性動脈硬化、壁面血栓を伴37mmの下腎腹部大動脈瘤

 

経口バンコマイシンによる治療とガンシクロビルの静脈内投与を開始

2時間~3時間ごとに血便がでる

 

#入院2日目、下部消化管内視鏡検査にて、S状結腸と直腸に、紅斑、浮腫、易出血性の重度の腸の炎症と深部潰瘍を認めた

#病理では、直腸とS状結腸に、表面潰瘍化や蜜になったリンパ形質細胞による固有層の置換があり、重症の活動性慢性大腸炎を認めた、小血管にコレステロール塞栓は少なかった

#CMV、HSV1-2、アデノウイルスは陰性

 

鑑別は?

 

 

慢性炎症性下痢の鑑別 (NEJMの解説より)

感染性

・最も鑑別にあがりやすい

・何ヶ月も下痢が続くことは説明が難しい

CD腸炎

・3回目の入院は、CD腸炎の再発で説明できるか?

・ CD腸炎の再発で偽膜の形成は典型的ではないため、偽膜がないからと言って否定できない

・血便、深部潰瘍、発熱や白血球上昇がないことはCD腸炎と合わない

寄生虫感染

histolytica(赤痢アメーバ)

・亜急性

・血便が数週間から数ヶ月続く

・CF所見ではびまん性の炎症、易出血性、潰瘍があり、潰瘍性大腸炎の所見と似ている

・血清学的陰性が合わない

・上行結腸から症状が始まることが多い点が合わない

・skipやspareされている場所があることが多い点が合わない

Strongyloides stercoralis (糞線虫)

・潰瘍性大腸炎の所見と似ている

・2回目の入院では好酸球が軽度上昇

・慢性期の感染では好酸球が上昇する(急性期では上昇しない)

・大腸を微小穿孔すると、杆状球が出現することがある

・上行結腸から症状が始まることが多い点が合わない

・skipやspareされている場所があることが多い点が合わない

 

悪性腫瘍

大腸癌、悪性リンパ腫

・内視鏡所見から否定的

形質細胞の異常増殖疾患、消化管アミロイドーシス

・慢性的な血性下痢を起こす

・アミロイドーシスに関連する他の所見(心不全、神経、蛋白尿)がない点が合わない

・組織学的所見がない点が合わない

虚血性疾患

大腸虚血は急性の血性下痢をきたすが、今回のケースと合わない

血管リスクがあるため、動脈硬化によるコレステロールの多発塞栓の可能性も否定できないが、皮膚や腎臓にその所見がないこと、直腸は血管支配が異なるため通常はスペアされる点が合わない

炎症性疾患

S状結腸憩室炎

・直腸がスペアされるはず、大腸全体に炎症が波及している点が合わない

潰瘍性大腸炎

・内視鏡検査では易出血性と深部潰瘍がみられる

・組織学的検査にて構造物の乱れと形質細胞の浸潤がみられる

・CD腸炎はIBDによく関連し、増悪の原因になりやすい

・CMVもIBDでよく認める

・潰瘍性大腸炎でステロイド治療を受ける患者にCMVの再活性化がよくみられる

・ CD腸炎とCMVが共感染した可能性が考えられる

・好酸球が初期では増加し、杆状球が病期が進行するとみられる

・古典的には免疫グロブリンが増加すると言われているが、最近の研究では高齢者ではIgMが低下することが報告されている

・動脈血栓のリスクがあると言われている

 

 

診断に迫る検査は?

***************************

再度下部消化管内視鏡検査で組織検査:陰窩膿瘍を認めた

 

 

最終診断:潰瘍性大腸炎

 

 

・感染性腸炎と炎症性腸疾患は組織学的所見が似ているが、陰窩膿瘍は潰瘍性大腸炎を示唆する

・初発は若年成人に生じるが、65歳以上の高齢者は、新しく診断がついた人の15%を占め、特に入院が必要な患者の多くを占める

・高齢者では感染や虚血、悪性腫瘍の確率も高くなるため、潰瘍性大腸炎をより疑わなければ診断できない

・高齢者では診断から1年以内に手術になりやすいという意見もある

・急性の重症な潰瘍性大腸炎は、診断から14ヶ月で1/3が入院してステロイドが必要となる

・ステロイド投与は1/3では効果がなく、インフリキシマブやシクロスポリンが必要となる(治療開始して3-5日目に判断することが好まれる)

・手術を遅らせることは予後が悪い

・高齢者では感染症のリスクが高いが、若年者より、プラセボと比較した免疫抑制によるリスクは高くない。

・CMVの存在が、潰瘍性大腸炎の病原性に重要な役割を果たしている可能性が示唆される

・ステロイドが効かない1/3の急性の潰瘍性大腸炎は、CMV腸炎を合併していた

・病理組織が重要であり、血液でのCMVの検出はCMV腸炎の感度、特異度は高くない

 

患者の転機

ステロイドの治療を開始し、バンコマイシンとガンシクロビルを中止した。

血便が改善せず、食思不審やADL低下があった。

手術には耐えられないと判断し、インフリキシマブを投与した。

しかし、誤嚥性肺炎を発症し、状況が悪くなった。

緩和的治療となり、入院中に亡くなられた。

 

振り返り

・年齢から炎症性腸疾患の可能性を低く見積もってしまっていた

・かなり珍しいが、腸管ベーチェット様症状を呈するトリソミーMDSも、高齢者の血便、消耗性疾患として鑑別となる

 ・慢性炎症性下痢では、膠原病、SLE、シェーグレン、顕微鏡的多発血管炎も鑑別か?

 

Next Step

・慢性下痢の鑑別はこちら

分泌性下痢
<便浸透圧Gap<50mOsm/kg>
<絶食で不変>
・過敏性腸症候群
・ホルモン産生腫瘍(ガスとリノーマ、VIP、カルチノイド)
・microscopic colitis
・内分泌疾患(甲状腺機能亢進)
 
 
 
 
炎症性下痢
<しぶり腹>
<発熱>
<便中白血球>
 
炎症性腸疾患
・Crohn病
・潰瘍性大腸炎
悪性腫瘍
・大腸ガン
・リンパ腫
浸透圧性下痢
<便浸透圧Gap>125mOsm/kg>
<絶食で改善>
 
・炭水化物吸収不全(乳頭、フルクトース)
 
・糖アルコール(キシリトール、ソルビトール)
アミロイドーシス
脂肪性下痢
<油っぽい便>
<ズダンⅢ染色>
<絶食で改善>
・セリアック病
・Whipple病
・膵外分泌機能不全
・胃バイパス術後
・リンパ障害(うっ血性心不全)
・ジアルジア症
膠原病
SLE
シェーグレン
顕微鏡的多発血管炎
感染症
CD腸炎
細菌性腸炎
寄生虫
ウイルス性腸炎(CMV, EBV)
結核
 
 
薬剤性 浸透圧、分泌性、動かす系、吸収不良、偽膜性腸炎
 

Am Fam Physician 84;1119-1126,2011.

 

 

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今週の振り返り

今週の症例のまとめ

5/13 全身の掻痒感

5/14 背部痛、血尿、浮腫

5/15 嘔吐

5/16 3ヶ月前から続く食思不審

5/17 低Na血症と顔・手の不随意運動

5/18 発熱、咳嗽、呼吸困難

5/19 視力低下

5/20 無気力と発語低下

5/21 進行する感覚低下と痺れ

5/22 身体機能の低下

 

 

************勉強となる鑑別疾患のあげ方************

5/16 好酸球増多の鑑別

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5/17 低Na血症の鑑別 (詳しくはこちらより)

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5/18 突然発症・急速進行の両側肺すりガラス影+心機能低下の症例の鑑別リスト

(詳しい解説はこちら)

・電子タバコ関連肺障害

・市中肺炎

・レプトスピラ

・野兎病

・肺ペスト 

ハンタウイルス肺症候群

 

5/19 視力低下の鑑別

(詳しい解説はこちら)

・視力障害の鑑別は、眼の解剖学的問題か視神系の問題

・それらは、対光反射で鑑別

・中心の視野が欠けており、色が見えない症状があるため、視神経障害の鑑別に進む

視神経障害(Optic Neuropathy)の鑑別

・経過で鑑別

超急性期:虚血や外傷

慢性: 悪性腫瘍、中毒、ビタミン欠乏

亜急性期

・グルココルチコイドの反応性、各種抗体、MRI所見等で鑑別

(例)

感染症

ライム病、梅毒、結核、サイトメガロウイルスなど

孤立性視神経炎・視神経炎

多発性硬化症

視神経脊髄炎

抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)抗体陽性の視神経炎

傍腫瘍症候群

サルコイドーシス

レーベル遺伝性視神経症

SLEやシェーグレン症候群、ANCA

 

 

5/20 急性脳髄膜炎の鑑別リスト (詳しい解説はこちら)

非感染性

自己免疫性脳症と傍腫瘍性脳症

がん性髄膜炎

片頭痛や片頭痛様症候群

NSAIDsなどによる薬剤性脳炎 

感染性

原生動物

アメーバ性髄膜脳炎

Balamuthia mandrillaris

Toxoplasma gondii  

真菌

地域流行型真菌症endemic mycosis (histoplasmosis, blastomycosis, coccidioidomycosis) 

Cryptococcus neoforman

細菌

Streptococcus pneumoniae

Listeria monocytogenes

Anaplasma phagocytophilum 

Spirochete(Treponema pallidum, Borrelia burgdorferi, or B. miyamotoi)

Mycobacterium tuberculosis

ウイルス

蚊媒介ウイルス(West Nile virus, St. Louis encephalitis virus, La Crosse virus, and eastern equine encephalitis virus)

ダニ (Tickborne Powassan virus, Ixodes scapularis)

ヘルペス (Herpes simplex viruses,Varicellazoster virus )

EBV

CMV

HHV-6

インフルエンザウイルス

JCウイルス

非ポリオ性エンテロウイルス(例えば、エコーウイルスやコックスサッキーウイルス)

慢性エンテロバイラル髄膜脳炎(Chronic enteroviral meningoencephalitis )

アデノウイルス

 

 

 

 

 

 

*********疾患別のLearning points************

*ネタバレあり*

 

 

 

5/13 糞線虫 Strongyloides Stercolarisについて

・慢性感染を起こす(65年以上持続感染したケースも)
・移動性の蛇のような掻痒のある皮疹をきたす
・下痢、食思不審、消化不良などの消化器症状をきたす
・hyper infection sydnromeでは致死率が87%(消化管粘膜から細菌の血行感染を起こす)
・便検査で1回で見つかる確率は30%、7回検査をすると感度 100%
・血清学は感度 95%、特異度 30%
特異度が低い(filariasis, schistosomiasis, and Ascaris lumbricoidesとcross reactionするから)
寄生虫感染は特異的なIgEと相関する (治療した後も、残存するが・・・)
 

5/14 前立腺癌骨転移について

・下腿浮腫はリンパ節転移が原因

・PSA上昇:前立腺肥大、前立腺炎、会陰外傷、唾液腺腫瘍

・前立腺癌の骨転移に対する標準治療:放射線照射

前立腺癌の骨転移に対する他の治療の選択肢として

ビスホスホネート:データがほとんどない、1つのデータでは骨イベント発生率や生存率を改善する結果は証明されなかった

デノスマブ:骨イベント発生率や生存率に関するデータなし

テリパラチドは禁忌(転移を増やす可能性)

・骨転移のある前立腺癌の標準治療: abiraterone/ docetaxel +glucocorticoids with ADT

(STAMPEDE, CHAARTED, and LATITUDE trials)

・Abirateroneには下腿浮腫の副作用があり、今回の患者にはAndrogen deprivation therapy +docetaxel + prostate radiation therapyを選択した

(STAMPEDE trial)

・予後は適切な治療を行えば、15ヶ月(13-17ヶ月)

 

5/15  血球貪食症候群

・血球貪食症候群の最多の原因はEBウイルス

・血球貪食症候群の治療は原則遅らせない

・肝脾腫大は80%、フェリチン上昇は95%、フィブリノゲン低値は40%以下

・皮膚は6-65%、痙攣や脳症などの神経症状は1/3以上

・骨髄で血球貪食像がなくても、血球貪食症候群がないとは言えない

・血球貪食症候群は、小児でなくても成人にも起こり得る

 

5/16 肝姪症について

牛、羊、豚、その他ロバやラマなどの家畜化された草食動物が最終的な宿主であり、そこから卵が放出されて繊毛化した遊泳性のミラシディアを形成し、中間宿主であるカタツムリに感染する。

ヒトに摂取されると、メタセルカリアは腸内で嚢胞を脱嚢し、2~24時間以内に腹腔内に移動する。48時間後、幼虫は7週間かけて肝実質を移動し、壊死と好酸球浸潤を引き起こす。

急性感染時には、蕁麻疹、そう痒症、またはその両方が20~25%の症例にみられる

慢性期(胆道期)では、成虫が宿主の肝管および総胆管に卵を放出する。この潜伏期は何十年も続くことがあり、胆道閉塞、上行性胆管炎、急性膵炎、粘膜浸潤および血便などの特徴がある。

卵は胆道期にのみ存在し、これは感染性メタセルカリアを摂取してから2~4ヶ月後に発生する。便検査は感染の初期段階では参考にならない。慢性期では卵が散発的に放出されるため、正確な診断のためには、複数の便検体の検査が必要になる。

慢性期では、超音波検査で胆道内の自発的な寄生虫の移動や三日月状の内容物が確認できることがある。結節影や、門脈周囲リンパ節腫大を、CTやMRIで認める。

今回は便中に肝姪を認めず、CDCに依頼して血清学的に診断した。(感度 94%、特異度 98%と報告されている)

今回の症例では、著しい好酸球増多の原因と、患者が旅行中に淡水植物を摂取したことが関係しているとの認識から、F. hepatica感染症を検討した。

 

5/17 LGI1抗体 辺縁系脳炎について

 

・ LGI1抗体 辺縁系脳炎では顔面上腕ジストニー発作が記憶障害、錯乱、痙攣の前兆となる

・LGI1抗体 辺縁系脳炎の60%に低Na血症が合併する

LGI1抗体陽性の辺縁系脳炎のプレゼンテーションでは、

記憶障害、錯乱、痙攣を認める。これらの症状の前に、顔面上腕のジストニー発作を認め、ジストニアやミオクローヌスと間違われる。低Na血症やREM睡眠行動異常を認める。

MRIでは辺縁系脳炎に典型的な内側側頭葉の高信号などの所見を示す。CSFでは正常かオリゴクローナルバンドを示す。症例の5-10%が悪性腫瘍と関連し、最も一般的な関連腫瘍は胸腺腫である。他の腫瘍との関連は偶然かもしれない。

Up To Date"Paraneoplastic and autoimmune encephalitis"より

 

5/18 ハンタウイルス肺症候群について

ハンタウイルス肺症候群(Hantavirus cardiopulmonary syndrome) (Sin Nombre Virus) (NIIDによる解説はこちら)

・出血性腎症候群、心肺症候群の2つの臨床病型がある

・心肺症候群は1993年にニューメキシコとアリゾナの間で原因不明のARDSがoutbreakして報告された

・ネズミが自然宿主であり、糞便、尿、唾液、噛まれたりして感染する

・潜伏期間は2-4週間、前駆症状(発熱、筋肉痛、頭痛、腹痛、嘔気嘔吐)が3-5日続く

・桿状好中球増多を伴う白血球増多、血小板減少が生じる

・前駆症状後に非膿性の痰を伴う咳嗽、呼吸困難、心筋障害が生じる

 

5/19 レーベル遺伝性視神経症

レーベル遺伝性視神経症

・痛みを伴わない亜急性の片目の重度の視力低下があり、数週間、数ヶ月後に別の片目の視力低下をきたす

・ミトコンドリア病遺伝で、男性に比較的多い、一般的には15~15歳の間に発生する

・50%の患者は家族歴はなし

・視力が20/200よりも悪くなる

・炎症は関与しないので、グルココルチコイドの投与で改善しない

・MRIでは通常視神経の後部のみが高信号となるが、急性期では視神経に造影効果がでる

・各種抗体が陰性で、グルココルチコイドの投与で改善しない点が合致する

 

5/20 アデノウイルスによる急性脳髄膜炎

アデノウイルス

・免疫不全の患者において、一次感染あるいは全身感染や呼吸器感染の合併症として髄膜炎や髄膜脳炎を引き起こす可能性がある

・髄膜脳炎が重症肺炎の合併症として一般的に起こるため、髄膜脳炎自体は稀な疾患である

 

5/21 多発性硬化症について

・古典的には臨床的発作(症状)と臨床的客観的所見(画像)がMSに合致し、時間的・空間的に多発することで診断されていた

・そのため最初の症状から間隔があいて(時間的に多発)診断されることが多かった

・しかし早期治療により臨床転機が改善されたことから、より早く診断をつけることが推奨され、2017年にMcDnald診断基準が改定された

Lancet Neurol. 2018;17(2):162-173.

・(例えば)髄液でオリゴクローナルバンド が陽性、画像から多発する脱髄所見(空間)があれば、時間的に多発しなくても診断可能となった

・しかしそれでも症状が出て診断がつくまで2年かかったり、最初の症状が起きてから3回のイベントが起きて診断された例や、

神経内科の受診まで46ヶ月かかった例が報告されている

・若い女性では診断に遅れが出やすい

・診断エラーが起きやすい併存疾患は、偏頭痛、線維筋痛症、精神疾患、NMO関連疾患である

・ 2017年に診断基準でMSが臨床的に診断しやすくなったが、他の疾患とMSを区別できるわけではない点にも注意が必要(Up To Date)

 

5/22 コルヒチン中毒(筋毒性、消化器毒性)

・高齢者の痛風の治療はNSAIDs、ステロイド、コルヒチンとどれも使用しにくい

・CrCl>30はコルヒチンの容量調節不要ではあるが、CrCl<60では慎重投与になっている

・処方する場合は、半年ごとにCKをモニターする必要がある

・クラリスロマイシン、フルコナゾール、アミオダロン、スタチン、フィブラート、シメチジンなどがコルヒチンの濃度をあげる

・消化器症状もコルヒチン中毒と考えられた

Up To Dateによると、

コルヒチンの消化器症状の頻度は、26-77%(下痢 23-77%、嘔吐 17%、嘔気 4-17%)

神経症状(頭痛1-2%、倦怠感 1-4%)

痛風(4%)

咽喉頭痛(2-3%)

ケースレポートレベルでは、

脱毛症、無形成性貧血、無精子症、骨髄抑制、皮膚炎、播種性血管内凝固、摂食障害(Syed 2016)、顆粒球減少症、肝毒性、過敏反応、CK増加、血清ALT増加。血清AST増加、乳糖不耐症、白血球減少症、丘疹性発疹、筋肉痛、筋無力症、ミオパチー、筋緊張症、神経障害、乏精子症、汎血球減少、末梢神経炎、非血小板減少性紫斑病、横紋筋融解症、皮膚発疹、血小板減少症、中毒性神経筋疾患

が報告されている

 

 

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身体機能の低下

80歳女性、目撃のない転倒で来院。

Functional Decline in an Elderly Patient:Connecting the Dots to Reach the Diagnosis. Am J Med. 2020;133(4):432‐433.e1.

https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(19)30763-6/fulltext

 

 

 

病歴より

*********************

#目撃のない転倒で受診

#2週間前より軟便が続き、腸の調子が悪いと感じていた

#身体機能の低下があった

#既往歴:高血圧症、TIA、痛風、慢性的なNSAIDsの使用によるAKI

#常用薬:テルミサルタン 40mg、クロピドグレル 75mg、オメプラゾール 20mg、アロプリノール 150mg、必要時コルヒチン 1000mg

 

 

身体所見より

*********************

#上下肢の近位筋低下

#座位から立位が困難

#母指球にミオトニアがあった

#歩行にはかなりの介助が必要
#腹部平坦・軟、圧痛なし

 

 

検査所見より

**********************
#CK 926、AST 119、ALT 97、Cre 102μmmol/L、CrCl 23

#筋電図:びまん性のミオトニー電位 (myotonic discharges)

 

 

 

 

 

 

 

追加問診は?

**********************

追加問診にて、毎日コルヒチン 1000mgを厳格に内服していたことが判明した

 

 

 

 

 

最終診断は?

**********************

コルヒチン中毒(筋毒性、消化器毒性)

 

 

コルヒチンを中止にして、3ヶ月後の筋電図は正常になった。

 

 

・高齢者の痛風の治療はNSAIDs、ステロイド、コルヒチンとどれも使用しにくい

・CrCl>30はコルヒチンの容量調節不要ではあるが、CrCl<60では慎重投与になっている

・処方する場合は、半年ごとにCKをモニターする必要がある

・クラリスロマイシン、フルコナゾール、アミオダロン、スタチン、フィブラート、シメチジンなどがコルヒチンの濃度をあげる

・消化器症状もコルヒチン中毒と考えられた

 

Up To Dateによると、

コルヒチンの消化器症状の頻度は、26-77%(下痢 23-77%、嘔吐 17%、嘔気 4-17%)

神経症状(頭痛1-2%、倦怠感 1-4%)

痛風(4%)

咽喉頭痛(2-3%)

ケースレポートレベルでは、

脱毛症、無形成性貧血、無精子症、骨髄抑制、皮膚炎、播種性血管内凝固、摂食障害(Syed 2016)、顆粒球減少症、肝毒性、過敏反応、CK増加、血清ALT増加。血清AST増加、乳糖不耐症、白血球減少症、丘疹性発疹、筋肉痛、筋無力症、ミオパチー、筋緊張症、神経障害、乏精子症、汎血球減少、末梢神経炎、非血小板減少性紫斑病、横紋筋融解症、皮膚発疹、血小板減少症、中毒性神経筋疾患

が報告されている

 

 

 

振り返り

・コルヒチンと他の薬剤の組み合わせには注意する必要がある

・コルヒチン単独だけでも定期的に内服しても中毒になることに注意する

・必要時にコルヒチンを内服しているという病歴が目眩しになった

 

 

 

Next Step

・ミオトニー放電を起こす他の疾患は?

臨床的なミオトニアを伴う疾患

筋強直性ジストロフィー

Thomsen病

ミオトニアを伴わない疾患

多発筋炎

高K性周期性四肢麻痺

 

 

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進行する感覚低下、痺れ

38歳女性、アメリカ、3週間、進行する感覚低下、痺れを主訴に来院。

Hindsight is 20/20.J Hosp Med. 2020;15(2):e1‐e5.

journalofhospitalmedicine.com

 

病歴より

****************************

#3週間の進行する感覚低下、痺れ

#手から始まり、足も始まった

#感覚低下、痺れは、両下肢から胸まで広がり、臀部はスペアされている

#左下肢の筋力低下の自覚がある

#発熱、悪寒、体重減少、排尿症状、嘔気、嘔吐や下痢なし

 

#既往:病的肥満、ドライアイ、うつ、鉄剤を静脈注射で補充している鉄欠乏性貧血,過多月経

#7年前に胃バンド留置術、5年後に嚥下障害、嘔気嘔吐、GERD、慢性腹痛のため抜去した

#duloxetine、 loratadine、pregabalin、鉄剤、点眼薬

#夫と性的活動あり

#飲酒は時々、喫煙なし、違法薬物なし

 

#体温は36.6℃で、血圧132/84mmHg、心拍数85回/分、BMI 39.5

#心臓、肺、皮膚の身体所見は正常
#腹部は軟、びまん性に圧痛あり、筋性防御や反跳痛なし

#脳神経Ⅱ〜Ⅶは正常
#認知、筋力、位置覚、深部腱反射、触覚は正常、歩行正常、ロンベルグ試験陰性

 

鑑別は?

・長さ依存性の末梢神経障害ではなさそう

・頸髄に病変がありそう

・胃のバリア手術はビタミンEやビタミンB12、銅、鉄が欠乏することがある

・ただし、上記は胃のバンディング手術にはあまり起こらない

・彼女の原因不明な慢性腹痛、鉄欠乏性貧血は、celiac病を考える

・ただし、体重が大きい、下痢がないことは、Crohn病やCeliac病の可能性を下げる

・鉛中毒は腹痛や神経症状を起こす

 

 

検査初見より

************************

#基礎代謝パネル正常
#WBC 5710, Hb 12.2, MCV 85.2, 血小板 27.9万, フェリチン 18, 鉄 28, TIBC 364,

#ビタミンB12 621(正常), TSH 1.87(正常), CRP 1.0, ESR 33,

#電解質、肝臓は正常
#HCV, HIV 陰性

 

鑑別は?

・コバラミン欠乏症ではビタミンB12が正常で誤認されることがあるが、メチルマロニル酸の測定で

欠乏しているかどうか評価をする

・炎症マーカーは非特異的だが、炎症疾患が腹部や神経症状を起こす可能性を下げる

 

 

3ヶ月の経過観察で麻痺は改善され、両側下肢に限局された

#左上肢の感覚障害を感じる45分間のエピソードがあった

#筋力と反射は正常

#足から膝まで、手から手首までの針での痛み刺激が低下

#両側下肢で振動覚が低下

#HbA1c 6.2%、メチルマロニル酸 69(正常)

#Borrelia burgdorferi、 Treponema pallidumの抗体は陰性

 

 

鑑別は?

・脊髄症は末梢神経障害のmimicとなる

・一過性の上肢の感覚障害は頸椎症も鑑別となる

・原因不明の腹痛は、腹壁を支配する神経障害を呈する可能性がある

・脊髄症、神経根症、末梢神経障害が鑑別

 

 

 

診断に迫る検査は?

********************

・神経伝導検査

・MRI

・腰椎穿刺

 

 

マルチビタミンを内服すると、症状が改善した

 

#1ヶ月後、眼球運動時に左側頭部痛、左眼の頭痛を自覚した。

#左目の視力低下を自覚した。

#光恐怖症、フラッシャー、浮動はない

#左目の視力が20/25

#両眼の眼球運動は正常

#右の瞳孔反射は正常

#左目のRed desaturation、相対的求心性瞳孔反射が消失

#眼底鏡検査では、左視神経乳頭浮腫あり

#左上肢の筋力低下、右の指鼻指試験が拙劣

#筋緊張、筋力、反射は正常

 

 

診断は?

・視神経障害の鑑別は、虚血、代謝、中毒、圧迫と多岐にわたる(2020/5/19を参照)

・眼痛や色別低下は、感染(トレポネーマ、ボレリア)、自己免疫(SLE、シェーグレン)、CNSの脱髄などの視神経炎を想定する

・脱髄疾患の可能性が高い

・MSとNMOを鑑別にあげる

・MSでは50%以上が視神経炎を起こす

・NMOの70%が抗アクアポリン4抗体を有している、MSと鑑別できる

・NMOと似ている疾患に、抗MOG抗体がある

 

 

#抗dsDNA抗体、SSA、SSBは陰性
#C3 162、C4 38 (正常)

#TSPOT陰性

・SLEやシェーグレン症候群の可能性はほとんどない

・TSPOTは活動性結核の診断の感度と特異度には限界がある

 

 

 

追加検査

********************

#光干渉断層撮影で左視神経乳頭浮腫あり
#頭部造影MRIでは、錐体後面、右中小脳台頭、前左側頭葉、両側の脳室周囲白質、両側の前頭葉の皮質下白質、左視神経の信号異常と増強を伴う髄質に異常な信号強度を認めた

# C3、C4、C7、 T4、T5、T7、およびT8に多焦点性の脱髄性病変を認めた

#病変は縦方向に広がってはいなかった

#積極的な脱髄を示唆する造影後の増強は認めなかった

#腰椎穿刺:糖105、蛋白質 26、赤血球 20、白血球 4(好中球 62% 、リンパ球 35%、単核球 3%)

#EBVやHSVのPCRは陰性

#オリゴクローナルIgGバンドが陽性

#アクアポリン-4 IgG抗体とMOG抗体は陰性

 

・MRIでは多数の多焦点白質が大脳、脳幹、脊髄全体に認められた。

・病変の多くは、特定の症状に直接起因するものではないが、いくつかの病変は、以下のような脱力感や失調の微妙な障害と相関していた。

・これらは副腎白質ジストロフィー、サルコイドーシス、ベーチェット病、脳狼瘡、血管炎、原発性中枢神経系炎症性脱髄疾患 でみられる

・NMOやMOGの可能性は下がった

・多発性の中枢神経の脱髄疾患は、MS以外に、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症、成人ポリグルコサン小体病があげられる

・JCウイルスによるPMLも多発性の中枢神経の脱髄疾患を起こす

・急性散在性脳脊髄炎はウイルス感染やワクチン接種後に生じる脱髄疾患で小児に多くみられる

・これらの疾患は急速に進行する点が今回のケースと合わない

 

最終診断は?

多発性硬化症

 

 

解説

・古典的には臨床的発作(症状)と臨床的客観的所見(画像)がMSに合致し、時間的・空間的に多発することで診断されていた

・そのため最初の症状から間隔があいて(時間的に多発)診断されることが多かった

・しかし早期治療により臨床転機が改善されたことから、より早く診断をつけることが推奨され、2017年にMcDnald診断基準が改定された

Lancet Neurol. 2018;17(2):162-173.

 

・(例えば)髄液でオリゴクローナルバンド が陽性、画像から多発する脱髄所見(空間)があれば、時間的に多発しなくても診断可能となった

・しかしそれでも症状が出て診断がつくまで2年かかったり、最初の症状が起きてから3回のイベントが起きて診断された例や、

神経内科の受診まで46ヶ月かかった例が報告されている

・若い女性では診断に遅れが出やすい

・診断エラーが起きやすい併存疾患は、偏頭痛、線維筋痛症、精神疾患、NMO関連疾患である

・ 2017年に診断基準でMSが臨床的に診断しやすくなったが、他の疾患とMSを区別できるわけではない点にも注意が必要(Up To Date)

 

振り返り

・MSで胸痛が生じるケースを以前経験したので、腹部の症状があっても想起診断できた。

・MSの診断基準が2017年に変更になっていたことに気がついていなかった

 

Next Step

・MSと早期診断する場合、NMOとの鑑別で注意する点はあるか?

 

 

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無気力と発語低下

45歳女性、冬、アメリカ、無気力と発語低下を主訴に来院。

 

Case 31-2019: A 45-Year-Old Woman with Headache and Somnolence. N Engl J Med. 2019;381(15):1459‐1470.

 

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc1904045

 

病歴より

*******************

#主訴:無気力と発語低下

#既往:多発性硬化症、血清陰性炎症性多発関節炎、片頭痛

# 13日以前は通常の健康状態、13日前に激しい頭痛が出現
#痛みは拍動性で、後頭部から眼窩後部、額に放散した

#疼痛の発症は、末梢のぼやけや光の揺らぎなどの視覚前兆があった
#過去の片頭痛と同様の痛み、最後の片頭痛は10年以上前

#普段はアセトアミノフェン・カフェイン療法で軽快する

 

それから5日後(入院8日前)に、他院を受診した

#羞明,吐き気,嘔吐あり

#頭部外傷の既往はなし

#首の痛み,発熱,悪寒,しびれ,しびれ,脱力感,めまいはない

#意識清明、体温は37.1℃、脈拍は101回/分、血圧は147/98mmHg、呼吸数は20回/分、酸素飽和度は99%(RA)

#暗い部屋で目を覆ってベッドに横たわっていた

#項部硬直なし
#左目の眼瞼下垂と縮瞳あり、神経学的検査はそれ以外は正常であった

#Hct、Hb、電解質、血糖、甲状腺の血中濃度は正常

#腎機能および肝機能検査の結果も正常

#頭部CT:急性の頭蓋内病変なし

#頭部MRI:散在性の脱髄斑あり、活動性の脱髄病変なし、静脈洞血栓症や海綿静脈洞血栓症もなし
輸液、オンダンセトロン、ジフェンヒドラミン、メトクロプラミド、硫酸マグネシウム、モルヒネを投与したが頭痛は持続した。ヒドロモルフォン、ケトロラック、メチルプレドニゾロンの静脈内投与を投与したところ、疼痛は適度に軽減した。

患者は帰宅しジクロフェナックとメチルプレドニゾロンの内服を5日間行うように指示された.

 

退院1日後(入院5日前)当院に入院する5日前から頭痛と吐き気が再発し、断続的な嘔吐を伴った。入院4日前には、嗜眠、見当識障害、言語出力の低下がみられた。患者は命令に従うことはできたが,質問に対する口頭での回答は "はい "と "いいえ "に限られていた.発熱、悪寒、胸痛、息切れ、咳、めまい、意識消失、痙攣性動作、失禁、顔面下垂、言葉の乱れはなかった。救急車で他院の救急科に搬送された。

 

身体所見・検査所見より

**********************

#覚醒していたが混乱、体温37.3℃、脈拍110回/分、血圧160/110mmHg、呼吸数18回/分、酸素飽和度96%(RA)

#神経学的検査は前回の検査と変わらず

#電解質、血糖、腎機能および肝機能検査の結果も正常

#尿毒物検査ではカンナビノイドが陽性

#頭部CT変化なし
ケトロラック、ファモチジン、パントプラゾールが投与され他院に入院。

翌朝、 38.0℃までの発熱あり。

#頭部MRI変化なし
#初圧は28cmで,6mlの清澄な脳脊髄液(CSF)

自己免疫性脳症および傍腫瘍性脳症に関連する自己抗体のためのCSFの検査を行った。

培養のために血液、尿、CSFの検体を採取し、患者にはアシクロビル、バンコマイシン、メロペネムを経験的に静脈内投与した。

#同日夜、項部硬直を認めた。

髄液:糖 45、蛋白質 190、透明、RCC 1、有核細胞数 63(好中球 18%、リンパ球 46%、マクロファージ 36%)、

その後3日間、患者の精神状態は一進一退であったが、全体的には持続的に不良であり、39.0℃までの発熱があった。当院の神経内科に転院して受診した。

 

ご主人より問診

********************

#他院に入院してから言葉の量が増え、質問に対する回答に単語やフレーズが含まれるようになった

#多発性硬化症はリツキシマブによる治療で安定した経過だった

#免疫抑制療法の使用が増加したにもかかわらず、血清陰性の炎症性多発性関節炎は進行していた

# 高血圧、うつ病、不安、およびメラノーマの既往歴

#副鼻腔炎は当院に入院する10週間前に発症し、ドキシサイクリン投与後に消失

#炎症性屈筋腱鞘炎に対し右手首の拡張手根管開放術と根治的屈筋腱鞘切除術

#入院前の投薬は、リツキシマブ、ヒドロキシクロロキン(入院18ヶ月前に開始)、レフルノミド(入院11ヶ月前に開始)、メチルプレドニゾロン(入院18ヶ月前に開始)

#ブタルビタール-アセトアミノフェン-カフェイン配合錠、ジクロフェナク、ハイドロコドン-アセトアミノフェン、吸入アルブテロール、デュロキセチン、ブプロピオン、クエチアピン、トラゾドンド、リシノプリル、ニフェジピン、コレカルシフェロール、葉酸

#ペニシリン、レボフロキサシン、セファロスポリン、およびスルホンアミド含有薬にアレルギー
#夫、3人の学齢期の子供とニューイングランドの郊外在住、犬を飼っている

#夏はマサチューセッツ州のケープコッドで過ごす

#旅行歴なし

# 7年間毎日10本の喫煙、22年前に禁煙
#アルコール適度、違法薬物なし

# 母親は冠動脈疾患、糖尿病、片頭痛、父親は高血圧、糖尿病、心房細動、多発性硬化症

 

 

身体所見より

**********************
#体温は36.3℃、脈拍は90回/分、血圧は106/65mmHg、呼吸数は18回/分、酸素飽和度は98%(RA)

#眼球結膜炎・強膜正常
#瞳孔は対照的、瞳孔欠損なし

#左目の瞬きや睇視あり、眼瞼下垂や顔面下垂なし

#咽頭発赤なし

#軽度の項部硬直あり

#呼吸音清明
#筋緊張と筋力、触覚、反射は正常

#ミオクローヌスなし
#姿勢時振戦あり

#患者は自分の名前を書けと言われると「magical」と書いた。単純な会話はできるが、複雑な会話はできなかった。

 

 

 

 

検査所見より

*************************
#Na 133、電解質、血糖、CK、乳酸は正常

#HIV陰性
#血液、尿、CSFの細菌培養、CSFの自己抗体検査は陰性

髄液:糖 107、蛋白質 572、黄色、RCC 68、有核細胞数 298(好中球 13%、リンパ球 64%、マクロファージ 18%)、キサントクロミー陽性
#頭部造影MRI: T2強調FLAIRでは、側頭葉と後頭葉の溝、右後頭葉の房周囲病変(periatrial region)に高信号を認め、拡散強調画像の焦点と対応していた

 

ドキシサイクリンによる経験的治療を開始し、静脈内アシクロビルとメロペネムの投与を継続した。腰椎穿刺を繰り返し行い、CSF分析の結果を表1に示した。その後2日間、患者の男性の状態は悪いままであった。脳波検査では後方地表にびまん性シータの鈍化が認められたが、てんかん様の活動は認められなかった。翌日、38.6℃までの発熱、言語出力の低下、命令に従う能力の低下がみられた。

 

#造影頭部MRIの再検:新たな水頭症、進行性で広範囲の脳髄膜造影所見、側脳室の脈絡叢と上衣の異常増強が認められた。  T2FLAIR画像では、広範な脳室周辺の高信号が両側大脳半球全体、歯状核内、第4脳室周辺、基底核、両側海馬、脳梁膨大部、拡散制限での領域に対応する脳室周囲の白質等に認められた

 

 

 

鑑別は?

 

 

 

以下、解説

****************************

急性脳髄膜炎の鑑別

 

非感染性

自己免疫性脳症と傍腫瘍性脳症

・上記は検査で陰性(ケースには何を調べたか記載なし)

 

がん性髄膜炎

・メラノーマの既往歴がある

・より長期の経過になる点が合わない

 

片頭痛や片頭痛様症候群

・リンパ性髄膜炎を起こすことがある

・髄膜脳炎への進行がある点が合わない

 

NSAIDsなどによる薬剤性脳炎

・ジクロフェナク使用前より発症していた点が合わない

 

感染性

原生動物

アメーバ性髄膜脳炎

Balamuthia mandrillaris

・免疫健常者にも感染を起こす

・肉芽腫性髄膜脳炎を引き起こし、通常MRIでは単数または複数の増強される肉芽腫性病変が認められる点がこの症例では合わない

Toxoplasma gondii

・すべての免疫抑制患者の脳炎では鑑別に入れる

・非焦点性脳炎を呈する

 

真菌

・亜急性または慢性経過である

地域流行型真菌症endemic mycosis (histoplasmosis, blastomycosis, coccidioidomycosis) 

・真菌症が蔓延している地域への曝露歴や旅行歴がない点が合わない

Cryptococcus neoforman

・メチルプレドニゾロンによる長期治療を受けていることから鑑別に入れる

・クリプトコッカス多糖抗原のCSF検査でこの疾患を除外すべき

 

細菌

・ CSFの所見には通常、好中球増多、糖低値、および蛋白質の上昇がある

Streptococcus pneumoniae

・この患者に投与された抗菌薬レジメンに反応していない点が合わない

Listeria monocytogenes

・生物学的療法を受けている患者におけるリステリア髄膜炎の症例266例のレビューでは、ほとんどの患者(77%)がインフリキシマブによる治療を受けていたが、 4%はこの患者のようにリツキシマブによる治療を受けていた

・患者の23%が細菌性髄膜炎を示す典型的なCSF所見を認めなかった

・メロペネムに反応していない点が合わない(メロペネムでfailureする報告もあるが)

Anaplasma phagocytophilum

A. phagocytophilum は、ヒトの他、ウマやヒツジなどにも感染し、アナプラズマ症を引き起こすことから「人獣共通感染症」病原体としても知られている。http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/312/dj312d.html

・ニューイングランドでも起こりうる

・白血球減少症、血小板減少症、または血中アミノトランスフェラーゼ値の上昇がない点が合わない

Spirochete(Treponema pallidum, Borrelia burgdorferi, or B. miyamotoi)

・この患者に投与された抗菌薬レジメンに反応していない点が合わない

Mycobacterium tuberculosis

・患者の免疫不全状態、抗菌薬治療に反応しないこと、MRIの所見に基底性髄膜炎、水頭症、びまん性髄膜炎があることを考慮すると、鑑別すべき重要な疾患である。
・結核性髄膜炎の患者のほとんどは髄液の糖が低く、この患者の入院時の髄液の糖は低くなかった。

 

ウイルス

蚊媒介ウイルス(West Nile virus, St. Louis encephalitis virus, La Crosse virus, and eastern equine encephalitis virus)

・季節が冬である点を考慮すると合わない

ダニ (Tickborne Powassan virus, Ixodes scapularis)

・季節が冬である点を考慮すると可能性は低い

・ダニは一般的に気温が2℃以下になると活動しないが、冬でもダニ媒介性感染症が発生する可能性はある

・ダニは雪が積もらず土の温度が7℃になると血液の宿主を探す、氷点下以上ではIxodes scapularisは活動できる。

ヘルペス (Herpes simplex viruses,Varicellazoster virus )

・アシクロビルに反応していない点が合わない

EBV

・可能性はあるが小脳運動失調や頭蓋神経麻痺がみられる

CMV

・中枢神経障害を起こす可能性はあるが、通常はAIDS患者によくみられる

HHV-6

・免疫抑制患者に生じるが、通常は造血幹細胞移植患者にみられる

インフルエンザウイルス

・急性壊死性脳症などの急性脳症症候群を引き起こす可能性がある

・成人ではまれ

・髄液の細胞数増加は通常起こさない

・呼吸器症状が見られていない点が合わない

JCウイルス

・進行性の多焦点性白脳症を引き起こす

・リツキシマブ投与中の患者でも報告されている

・髄液の細胞数増加は通常起こさない

非ポリオ性エンテロウイルス(例えば、エコーウイルスやコックスサッキーウイルス)

・晩夏から初秋に典型的である

慢性エンテロバイラル髄膜脳炎(Chronic enteroviral meningoencephalitis )

・リツキシマブ治療を受けた患者で報告されるが、通常は低ガンマグロブリン血症を生じるほど長期投与している人に報告される

・非常に稀

アデノウイルス

・免疫不全の患者において、一次感染あるいは全身感染や呼吸器感染の合併症として髄膜炎や髄膜脳炎を引き起こす可能性がある

・髄膜脳炎が重症肺炎の合併症として一般的に起こるため、髄膜脳炎自体は稀な疾患である

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

*****************************

血液またはCSFのアデノウイルスのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査:陽性

 

 

 

最終診断:アデノウイルス

 

治療

Cidofovir (5mg/kg)

免疫グロブリン(0.5 mg/kg/day for 5 days)

Brincidofovirも考慮したが、入院12日目に死亡した

 

脳の剖検では、大脳白質、大脳新皮質、海馬錐体層、小脳歯状核に微小グリア性結節を伴う広範な単核炎症を認めた

リンパ球浸潤は、主にCD3+ T細胞で構成され、血管周囲および実質的な分布を有した

電子顕微鏡ではウイルス粒子を認めた

一般剖検では壊死性間質性腎炎と病巣性腸炎を認め、免疫組織化学染色ではアデノウイルスが陽性であった。

 

 

振り返り

・急性脳髄膜炎の鑑別は多岐にわたる

・今回のケースは通常考えるようなウイルス感染の臨床シナリオではない

例えば、咽頭などからアデノウイルスが確認された場合は考慮される

・季節性による鑑別も重要である(特にケースを読むと季節を無視してしまう)

 

 

 

Next Step

・今回多岐にわたる疾患を考え検査を行い除外していたが、アデノウイルスによる脳炎は非特異的であり、最後まで可能性を残さないといけない

・どういうシチュエーションや症候でアデノウイルスによる脳炎を疑うべきか?

→日本では小児に起こっている?

日本での報告例はを参照

 

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視力低下

31歳女性、アメリカ、視力低下を主訴に来院。

Case 21-2019: A 31-Year-Old Woman with Vision Loss

N Engl J Med. 2019 Jul 11;381(2):164-172.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc1900597

 

病歴より

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#3週間前より左目の視野がぼやけてきた

#遠方の物体が見えなくなり、メガネが必要になった

#1週間前に左目の視野の中心部に影がかかり、ほとんど左目の視野の中心部が見えなくなった

#左目の周辺の視野は影響を受けなかった

#右目の視野は問題なかった

#左目の視野が悪くなったときに、目に浮遊物が写っていたことを思いだした

#近医の眼底検査では中心視野の視力低下が指摘された。他は問題がなかった

 

 

1回目の検査所見・眼科診察より

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#体温は 36.1℃、脈拍72回/分、血圧118/81mmHg、呼吸数 16回、酸素飽和度99%(RA)、BMI 20.4

#左目に中心暗点を認めた

#視力は 右目が20/30、左目が20/400

#石原カラーテストでは、8/13の色板が右目の視野で正しく識別され、左目では0/13であった

#瞳孔径は等しく、丸く、光に反応するが、相対性求心性瞳孔反応欠損を左目で認めた

#両眼のスリットランプ検査では、結膜、瞼、睫毛、結膜、強膜は正常で、角膜は明瞭であった。前房、虹彩、水晶体、硝子体は両眼とも正常であった

#眼圧は右目18mmHg、左目17mmHgであった。視神経はピンク色で、正常な乳頭陥凹だった。

#眼底の血管は両眼とも正常であった。眼球外運動は両眼とも正常で眼振はなかった。

#頭部造影MRI:T2強調画像では左視神経に軽い霞がかかったような信号の増加があった、視神経を圧迫する腫瘤病変や脳白質病変はなかった

 

 

 

 

 

 

追加問診より

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#3週間前と視力は変わりなく、左目の下に断続的な鈍痛があった

#二重視、眼球運動に伴う痛み、眼球外傷の既往歴はない

#発熱、悪寒、しびれ、しびれ、脱力感はない

#協調運動の欠如、難聴、息切れ、嘔吐、下痢、発疹などの症状はない

#ビタミンDと鉄分の欠乏の既往歴がある

#手術歴、アレルギー歴なし

#ニューイングランドの郊外で一人暮らし

#男性パートナーとの長期的な関係があるが、子供はいない

#たまにお酒を飲む、喫煙なし、違法薬物なし

#最近の旅行歴、虫刺され、ダニ刺されなし

#猫を飼っている

#彼女の祖父は高脂血症、母親には緑内障の既往歴がある。視力障害の家族歴はない

 

 

 

 

 

 

 

血液検査より

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#血球数、腎臓、肝臓、電解質、血糖、ビタミンB12、CRP、甲状腺、ACEは正常

#25-ビタミンD 19

#抗核抗体1:40で陽性

#抗ds-DNA抗体、抗アクアポリン4抗体、抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体およびリウマチ因子はいずれも陰性

#ライム病、梅毒、HIVは陰性

 

 

経験的にグルココルチコイドの静脈内投与を行い患者希望で外来フォローとなった。

9日後、左目の鼻側の視野に影がかかるようになった。

 

#2回目の眼科検査では大きな変わりなし

 

 

グルココルチコイドの静脈内投与による3日間の外来で投与し、その後の14日間のテーパリングされたプレドニゾンのコースを処方した

34日後(左目の視力障害が始まって2ヶ月後)、右目の視力障害が始まった

 

 

 

 

3回目の診察

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#グルココルチコイドで治療後、軽度の視力改善があったが短時間で一過性のものであった。

#視力は右目が20/200、左目が20/400

#石原カラーテストでは、コントロールプレートのみが正しく識別され、両眼とも完全な色覚異常を示した。

#瞳孔は軽度の大小不同と相対性求心性瞳孔反応欠損を左目に認めた

#眼のスリットランプ検査は変化なし。

#左視神経円板は蒼白であった,それ以外の両眼の眼底像検査は正常であった.

#葉酸、チアミン、銅のレベルは正常

#抗Ro抗体および抗La抗体は陰性

#頭部、眼窩、頚椎、胸椎の造影MRIを施行した。T2強調画像は、左視神経内に造影効果のある非対称性の信号の増強と、右視神経には異常造影はないが信号の微妙な増強があった

#脳白質病変や脊髄に異常はなかった
#腰椎穿刺:初圧 17cm、グラム染色は中程度の単核細胞を認めた、好中球や細菌は同定されなかった

髄液:糖 84、蛋白質 31、透明、RCC 1、有核細胞数 1(好中球 20%、リンパ球 30%、単核球 50%)、 別スピッツ:1(好中球 0%、リンパ球 80%、単核球 20%)、オリゴクローナルバンド 異常なバンドなし

#細菌培養は陰性、細胞診でも悪性所見なかった

 

 

 

3日間、静脈内グルココルチコイドを投与したが、視力の改善は認められなかった

鑑別は?

 

 

 

 

テーマ:亜急性の両側性視力低下の鑑別

・視力障害の鑑別は、眼の解剖学的問題か視神系の問題

・それらは、対光反射で鑑別

・中心の視野が欠けており、色が見えない症状があるため、視神経障害の鑑別に進む

 

視神経障害(Optic Neuropathy)の鑑別

・経過で鑑別

超急性期:虚血や外傷

慢性: 悪性腫瘍、中毒、ビタミン欠乏

亜急性期

・一グルココルチコイドの反応性、各種抗体、MRI所見等で鑑別

 

 

感染症

ライム病、梅毒、結核、サイトメガロウイルスなど

・孤発する視神経障害よりは神経網膜症などの網膜に関与する

・梅毒、ライム、HIVは陰性であった

 

孤立性視神経炎・視神経炎

・視神経に炎症や脱髄を起こす免疫関連の視神経炎

・眼球運動によって痛みが誘発されることが多い

・孤立して起きることもあるが、一般的には多発性硬化症、視神経脊髄炎、や稀な疾患の前兆として起きる

 

多発性硬化症

・視神経炎による視力低下で診断されることがよくある

・2/3以上の患者では軽度〜中等度の視力低下や色覚異常が起きる

・視力低下が重度であり、グルココルチコイドに反応しない点が合わない

・頭部MRIで頭部に異常がないこと、オリゴクローナルバンド がない点が合わない

 

視神経脊髄炎

・20%の患者が多発性硬化症による視神経炎より重症で、予後が悪くなる、両側性で急速に進行する

・80%以上の患者が視力が20/200より悪化する

・典型的なMRI所見がないこと、感度・特異度の高い抗アクアポリン4抗体が陰性である点が合わない

 

抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)抗体陽性の視神経炎

・典型的なMRI所見がない点が合わない

・通常、高用量のグルココルチコイドに劇的な改善効果がある

・抗MOG抗体が陰性でも除外はできないが、可能性は低くなる

 

傍腫瘍症候群

・両側性視神経症状が傍腫瘍性症候群の初期症状のことがある

・一般的にはグルココルチコイド治療にあまり反応しない

・他の脳神経や末梢神経障害、自律神経障害、失調症、認知症、または神経筋接合部障害のような他の神経症状が伴うことが多い

 

サルコイドーシス

・全身性の症状のある患者の25%で視力異常がみられる

・ぶどう膜炎が一般的だが、孤立性視神経炎が起きることもある

・他の炎症性とは対照的に、痛みが軽度で進行が遅いことが特徴的である

・ACEが正常であることはサルコイドーシスの可能性を除外できない

・グルココルチコイドは通常視力障害を改善させるが、必ずではない

・通常、MRIでは視神経が拡大、硬膜肥厚、軟膜に造影効果が出る点が合わない

 

レーベル遺伝性視神経症

・痛みを伴わない亜急性の片目の重度の視力低下があり、数週間、数ヶ月後に別の片目の視力低下をきたす

・ミトコンドリア病遺伝で、男性に比較的多い、一般的には15~15歳の間に発生する

・50%の患者は家族歴はなし

・視力が20/200よりも悪くなる

・炎症は関与しないので、グルココルチコイドの投与で改善しない

・MRIでは通常視神経の後部のみが高信号となるが、急性期では視神経に造影効果がでる

・各種抗体が陰性で、グルココルチコイドの投与で改善しない点が合致する

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

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遺伝子検査:ミトコンドリアDNAの点変異

 

 

最終診断:レーベル遺伝性視神経症

 

 

レーベル遺伝性視神経症 (Leber’s Hereditary Optic Neuropathy :LHON)

(NEJMより翻訳)

ミトコンドリア遺伝子変異による母系遺伝疾患

遺伝子異常によりNADH 脱水素酵素サブユニットの活性が低下し、ミトコンドリア電子輸送鎖の複合体1の活性低下を引き起こす

95%がm.11778G→A(他は、 m.3460G→Aやm.14484T→C)で、最終的にATP産生の低下につながる

これらの遺伝子の突然変異だけではなく、他の遺伝的修飾因子(ミトコンドリアDNAコピー数、ハプロタイプ、および核内修飾因子)、環境因子(タバコ、アルコール、毒素曝露)、および性ホルモンが、おそらく病態生理に関与している

フリーラジカルの増加、ATP産生量の減少、および酸化還元バランス、最終的には網膜神経節細胞のアポトーシスと視神経変性を生じる

眼球外の症状には、MRIでの白質の変化、脱力感、感覚喪失、乳酸アシドーシス、または他の一般的なミトコンドリア病の症状が出現し、LHON plusと呼ばれる。

(今回の患者には、眼球外の症状は認められなかった。)

 

治療

FDAで承認されている薬物治療はなし

コエンザイムQ10の誘導体であるイデベノンが、ヨーロッパで承認され使用されており、今後の薬物治療の選択肢になりうる

遺伝子治療も将来の治療となる可能性があるが、臨床試験のデータには乏しい

 

 

 

振り返り

・視神経炎を起こす疾患というカテゴリーを覚えると、鑑別診断が広がる

・レーベル遺伝性視神経症は神経内科より眼科がよくみる疾患?

・SLEやシェーグレン症候群、ANCAも視神経炎の鑑別に上がる 

・眼科的な疾患の想定が難しかった 

・視神経炎を疑った際は専門医に送った方が良い

参考診療

・球後視神経炎では眼底に異常を認めない 

 

Next step

・レーベル遺伝性視神経症の疾患頻度は?

→日本でもみる可能性がある、こちらより

 

 

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