築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

嘔吐

このブログはケーススタディを勉強するブログです。

 

56歳女性、インド在住、2日前の嘔吐を主訴に来院。

 

Gastroenteritis gone rogue.

Cleve Clin J Med. 2020 Mar;87(3):139-144.

https://www.ccjm.org/content/87/3/139

 

病歴より

********************

#2日前から嘔吐

#食後、非胆汁性、非血性

#軽度、間欠的、正中の軽度の腹痛を伴う

#全身の脱力感、水溶性下痢

#発熱なし

#渡航歴なし

#似たようなエピソード以前なし

#sick contactなし

#高血圧症

#子宮筋腫、部分筋腫切除術

#常用薬:hydrochlorothiazide、ibuprofen、acetaminophen

#アルコールや違法薬物なし

#喫煙:1日5本

 

 

 

身体所見より

*********************

#意識清明、37度、血圧 107/65、脈拍 111回・整、呼吸数 20、SpO2 97%

#口腔内粘膜乾燥、心雑音なし、肺雑音なし

#腹部平坦・軟、圧痛なし、腸蠕動音正常

#臓器腫大なし

#皮疹なし

#神経学的所見なし

#リンパ節腫大なし

 

 

 

 

 

検査所見より

**********************

#Na 134, BUN 58, Cre 2.70, AST 20, ALT 24, Hb 12.2, 血小板 22万,

#WBC 9400,

#尿:蛋白 30mg/dL、ケトン 5mg/dL、白血球エステラーぜ 25mg/dL

#尿沈渣:白血球 5-10、細菌、扁平上皮は少ない、硝子様円柱が20個以上

#単純CT:腸管の拡張とループなどはなし

 

 

 

鑑別は?

 

 

 

 

 

 

入院2日目

**********************

#39度の発熱、頻脈 120

#便培養よりSalmonella検出

#湿性咳嗽が出現

#両側でcrackles、CTで両側すりガラス陰

#CTで肺塞栓はなし

#プロカルシトニン(PCT)  58

 

 

 

 

 

 

最初の診断:Salmonella腸炎、市中肺炎による敗血症

**********************

#アジスロマイシン、バンコマイシン、ピペラシリン・タゾバクタム開始

 

 

 

 

 

入院5日目

**********************

#頻脈性心房細動、ジルチアゼム

#WBC 18900、血小板 10.9万、

#酸素需要 3-4Lが出現

#血液検査:総ビリルビン 22.3(直接ビリルビン 8.4)、ALT 192、AST 174、LDH 290、血小板 4.9万、Hb 7.3、WBC 32900(2%骨髄球、3%桿状核、92%好中球、2%リンパ球、1%単核球)、freeT4 0.8、フィブリノゲン 40、PT-INR 1.03、フェリチン 2455

#血液像塗抹にて有核赤血球

#白血球の左方移動

#各種培養:陰性

 

 

 

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

*********************

#骨髄穿刺:血球貪食像あり

#トリグリセリド 316

#CD 25(可溶性IL2レセプター) 2532

#NK細胞機能正常

#HLHの遺伝子変異なし

 

 

 

 

 

 

 

 

最終診断は?

*********************

診断:血球貪食症候群 (HLH)

治療:HLH94プロトコル

 

 

 

 

 

HLH診断基準

 

f:id:nishizawa121:20200515211230p:plain

Blood 2015;125:2908-14

他にHLH関連の遺伝子変異があるとそれだけで診断(primary HLH)となる

 

 

f:id:nishizawa121:20200515211309p:plain

Lancet 2014;383:1503-16.

 

 

teaching points

・下痢の急性の定義は14日間以内

・便検査をした方がいい対象:医療従事者、重度の脱水、発熱、血性下痢、70歳以上、免疫不全、IBD(疑い、診断例)、市中でのoutbreak、妊娠、重大な併存疾患

・下気道感染において、PCT 10以上は細菌性肺炎を示唆する

・敗血症の10%が新規発症のAfになる

・典型的なDICではフィブリノゲンは低い

・血球貪食症候群の最多の原因はEBウイルス

・血球貪食症候群の治療は原則遅らせない

・肝脾腫大は80%、フェリチン上昇は95%、フィブリノゲン低値は40%以下

・皮膚は6-65%、痙攣や脳症などの神経症状は1/3以上

・骨髄で血球貪食像がなくても、血球貪食症候群がないとは言えない

・血球貪食症候群は、小児でなくても成人にも起こり得る

 

 

 

振り返り

・血球貪食症候群がSevere Sepsisに見えることがある

 ・抗菌薬不応の持続する発熱、多系統の血球減少及び肝機能障害を認めたら、鑑別疾患にHLHを念頭に置く

 

 

 

Next Step

・血球貪食症候群はサルモネラ腸炎で起こったのか?(ケースには記載なし)

・酸素需要やすりガラス影の出現は高サイトカイン血症が原因か?(ケースには記載なし)、血球貪食症候群でARDSはどれくらい起こる?

・血球貪食症候群でもプロカルシトニン は高値になる?

 

 

 

 

Facebookページでの登録はこちらから