3ヶ月前から続く食思不振
このブログはケーススタディを勉強するブログです。
59歳女性、シカゴ、3ヶ月前から続く食思不振を主訴に来院。
Hiding in the Water. N Engl J Med. 2020 May 7;382(19):1844-1849.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1902741
病歴より
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#3ヶ月前から続く食思不振
#腹部の違和感は、右上腹部、鋭く、3-5時間持続し、6日おきに起こる
#不快感は、食事や腸の動きとは関係ない、睡眠時にはほとんど起こらない
#嘔気なし、嘔吐なし、体重減少なし、食生活の変化なし
#来院2日前に39度の悪寒戰慄を伴う発熱あり
#掻痒感のある皮疹が腕、大腿、臀部に出現
#咳な排尿症状なし
#既往歴:骨粗しょう症
#手術歴やover the counter medications (OTC)の使用歴なし
#乳がんと大腸癌のスクリーニングは直近でしている
#電解質、肝機能、血球数は4ヶ月前は異常なし
#都市部に夫と犬と住んでいる
#最近はイタリア、スウェーデン、デンマークに渡航歴がある
#3ヶ月前にイタリアにてフレッシュなクレソンとケールを含んだ野菜ジュースを飲んだ後より、嘔吐や複数回の失神などを含む、上部消化管症状を認めるようになった。
身体所見より
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#37.2度、心拍数 80回・整、血圧 135/80、
#黄染なし、肺雑音なし、
#肝・脾腫大なし
#上腹部に軽度の触診で圧痛を認める
#腕と体幹に蕁麻疹と掻破痕を認める
検査所見より
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#WBC 19000 (好中球 28%、リンパ球 20%、単核球 13%、好酸球 37%)、Hb 12、Plt 25.2万
#電解質、腎機能は正常
#AST 61、ALT 88、ALP 141
#胸部X線正常
#肝臓のサイズは正常、肝臓に低エコー領域がみられた
#肝内・肝外の胆管拡張なし、胆嚢壁の肥大や胆石なし
#コルチゾール 12.8
#ANCA陰性
#トリプターゼ正常
#ビタミンB12 948
鑑別診断は?
入院して1週間後
#39.4度、悪寒戰慄
#WBC 11600 (好酸球 6830)
#便検査では寄生虫や虫卵なし
#ノロウイルス、サルモネラ、クリプトスポリジウム、ランブル鞭毛虫を含むウイルスや細菌、原虫は陰性であった
#造影のMRI(T1強調画像)lにて肝右葉周辺に低信号の斑点がみられた
#門脈周囲リンパ節腫大(1.4-2.6 cm)
診断に迫る検査は?
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#肝姪症の抗体:陽性
最終診断:肝姪症
治療:トリクラベンダゾール 10mg/kg、24時間後に2nd doseを投与
teaching points
・Celiac diseaseは上部消化管症状と典型的な皮疹が出る
・長く続く(3ヶ月以上)消化器症状には、原虫疾患も鑑別である
・免疫抑制患者ではノロウイルスが慢性的な消化管疾患を呈することがある
・好酸球増多の鑑別:画像参照
(薬剤性)
・ビタミンB12は肝障害で増加
・渡航歴があり、腹痛、好酸球増多、繰り返す蕁麻疹があれば、糞線虫を鑑別に考える(2020/5/13)
・犬との接触歴あり、犬回虫も鑑別。腹痛、好酸球増多、肝臓内の卵形異常を説明できる。汚染された土を口にした小児や肺の異常影があることが典型的なプレゼンテーションである
・肝姪症は、幼虫(メタセルカリア)のついたクレソンなどの淡水植物を口にすると感染する、腹痛や嘔気の症状が2-3ヶ月継続する
肝姪症について (NEJMの解説を簡単に翻訳)
牛、羊、豚、その他ロバやラマなどの家畜化された草食動物が最終的な宿主であり、そこから卵が放出されて繊毛化した遊泳性のミラシディアを形成し、中間宿主であるカタツムリに感染する。
ヒトに摂取されると、メタセルカリアは腸内で嚢胞を脱嚢し、2~24時間以内に腹腔内に移動する。48時間後、幼虫は7週間かけて肝実質を移動し、壊死と好酸球浸潤を引き起こす。
急性感染時には、蕁麻疹、そう痒症、またはその両方が20~25%の症例にみられる
慢性期(胆道期)では、成虫が宿主の肝管および総胆管に卵を放出する。この潜伏期は何十年も続くことがあり、胆道閉塞、上行性胆管炎、急性膵炎、粘膜浸潤および血便などの特徴がある。
卵は胆道期にのみ存在し、これは感染性メタセルカリアを摂取してから2~4ヶ月後に発生する。便検査は感染の初期段階では参考にならない。慢性期では卵が散発的に放出されるため、正確な診断のためには、複数の便検体の検査が必要になる。
慢性期では、超音波検査で胆道内の自発的な寄生虫の移動や三日月状の内容物が確認できることがある。結節影や、門脈周囲リンパ節腫大を、CTやMRIで認める。
今回は便中に肝姪を認めず、CDCに依頼して血清学的に診断した。(感度 94%、特異度 98%と報告されている)
今回の症例では、著しい好酸球増多の原因と、患者が旅行中に淡水植物を摂取したことが関係しているとの認識から、F. hepatica感染症を検討した。
振り返り
・消化器症状に発熱があるため、感染症や悪性腫瘍を鑑別に考えた
・好酸球増多で寄生虫感染を鑑別にあげられた
・渡航歴で何を摂食したか丁寧に聞き出す問診技術が今回の症例では重要であったと考えられる
Next Step
・日本で肝姪症が流行している地域はどこだろうか?
・日本で肝姪症を疑った場合、抗体検査はできるか?
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