築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

意識変容

70歳男性、意識変容
Mukaigawara M, Manesh R, Kinjo M, Sugita S, Olson APJ. A Curve Ball. N Engl J Med. 2020;383(10):970-975.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1910306

 

病歴より

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#2日前までは通常の健康状態

#ポテトでできた餅を食べた後、尿回数の増加と尿量の減少がみられた

#吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、腰痛、発熱、悪寒はなかった

#当日,自宅の浴室の玄関に立っているのを息子さんに見られ,意識が混乱している様子であった

#息子が話しかけたところ、患者は白目をむいて床に倒れ込みました

#救急隊が患者を救急部に運んだが、到着時には患者は意識が清明であった。

 

 

#過去の既往:前立腺肥大症、高血圧、喘息

#常用薬:アテノロール、アムロジピン、エナラプリル

#市販薬、サプリメント、漢方薬は服用していない

#離島でタクシー運転手

#サトウキビ畑でも週に1回以上働いている

#息子よりサトウキビの収穫時期が数週間前に終わったこと,本人がサトウキビ畑を訪れる頻度が減ったことが報告

#野良猫が時々家の近くに来ることがあるが、直接接触したことはない

#虫に刺されたり、生食を食べたり、海水や淡水と接触したことはない

#タバコを吸わず、たまにアルコールを飲んでいた。最近旅行をしておらず、病気の人との接触もなかった

 

 

身体所見より

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#体温36.5℃,収縮期血圧55mmHg,心拍数100拍/分,呼吸数28回/分,酸素飽和度97%

#顔面紅潮,浮腫を呈していた.両眼に結膜充血があった

#瞳孔は等しく,大きさは小さく,左右対称に光に反応した、粘膜は湿潤

#虫歯は複数の未治療のものがあった

#心臓の検査では雑音はなし。肺は明瞭。

#直腸検査では、前立腺腫大を認めたが、圧痛はなかった

#腸音は正常

#手足は温かく浮腫はなかった

#右上腕に長さ2~3cmの表在性擦過傷が数個あった

#虫刺されはなかった

#救急外来では緑色を帯びた緩い排便が1回あった

 

 

検査所見より

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#白血球数は20,500/mm3で、好中球81%、リンパ球16%、好酸球1%

#Hb 12.5g/dL、血小板 317,000/mm3

#Na 136mmol/L、K 5.2mmol/L、CL 101mmol/L、HCO3 21mmol/L

#BUN 55mg/dL、Cre 4.9mg/dL(ベースの腎機能は不明)

#Lactate 41.4mg/dL(4.6mmol/L)

#血清トロポニン値は正常範囲内

#尿比重 1.019、尿中WBC 5個、RBC 20個、蛋白質 +3、細胞円柱なし

#尿毒物スクリーニング検査ではベンゾジアゼピン、コカイン、バルビタール酸塩、フェンシクリジン、アンフェタミン、メタムフェタミン、マリファナ、モルヒネ、三環系抗うつ剤は陰性

#心電図では洞性頻脈

#経腹超音波検査では膀胱膨満や水腎症は認められなかった。経胸腔超音波検査では、壁運動異常、弁膜症、心嚢液貯留を伴わない左室駆出率の異常は認められなかった。胸部および腹部のCT検査では右上肺野にすりガラス陰影が認められた。膀胱膨満、水腎症、脂肪組織濃度上昇は認められなかった。

 

大腿静脈カテーテル検査で中心静脈にアクセスし、生理食塩水とノルエピネフリンの輸液を開始した。血液と尿の培養を行った

 

 

#腰椎穿刺では、赤血球10個、単球1個、ブドウ糖 140mg/dL、タンパク質 37mg/dL。脳脊髄液(CSF)のグラム染色では生物は認められなかった

 

 toxic shock syndromeやつつが虫病などをカバーするため,セフォタキシム,クリンダマイシン,ミノサイクリンによる経験的抗生物質治療が開始された

患者はICUに入院し、ノルエピネフリンによる治療を継続し、4リットルの乳化リンゲル液を投与した

 

#バソプレシンとエピネフリンが追加されたが、収縮期血圧は50~60mmHgで低血圧が続いた。ヒドロコルチゾン(100mg)を静脈内投与したが、血圧の改善はみられなかった

#発熱(体温39℃)を呈した.頻脈を認め,動脈血ガス分析の結果,pH7.20,炭酸ガス分圧48mmHg,酸素分圧148mmHg,炭酸水素濃度18.1mmol/L,乳酸値4.4mg/deciliter(0.49mmol/L)であった

 

患者は気道保護のために挿管され、未確認の毒素や毒性物質が懸念されたため、継続的な静脈血液透析が開始された

血液透析を3日間継続して行ったところ、低血圧は徐々に改善した。同時期に顔面、手のひら、腋窩、性器部に落屑が発生した。血液,尿,髄液培養は陰性のままであった.血清学的検査は陰性であった

入院6日後にすべての血管作動薬を中止し,抜管を行った

入院10日後、一般病棟に入院中にびまん性脱毛症を発症した

 

 

鑑別は?

・敗血症性ショック

第一に考慮すべきは、皮膚、口腔、肺など複数の感染部位が考えられる敗血症性ショックである

患者の心エコーが正常であることなどから、心原性ショックや閉塞性ショックではなく分布性ショックと推定される

乏尿性腎不全は、少なくとも部分的には低血圧による腎低灌流によって説明できる

 

 

・TSS

黄色ブドウ球菌またはレンサ球菌によるTSSの後に落屑が生じることがある

中毒性ショック症候群における脱落は、通常、症状発現から10~21日後に発症するのに対し、この患者の脱落は入院後3日後に発症した

この患者は抗菌薬治療に反応せず、培養は無菌のままであり、明確な感染源はなかった

アナフィラキシーや副腎クリーシスのような非感染性の分布性ショックの原因が残っている可能性がある

 

・つつが虫病

日本で流行しているOrientia tsutsuga-mushiによる媒介性疾患であるつつが虫病による痂皮は、よく見落とされることがある

血液培養に加えて、O. tsutsugamushiを含むリケッチア感染症を評価するための血清学的検査およびPCRが必要である

つつが虫病は通常、人が感染したマダニに咬まれてから10日以内に、発疹の有無にかかわらず、急性の熱性疾患として現れる

 

 

・副腎不全

副腎クリーゼは、分布性の低緊張と混乱を伴うこともある

正常な血清ナトリウム値とヒドロコルチゾン不応性の低血圧は副腎クリーゼの可能性を低くする

 

・アナフィラキシー

虫刺されによるアナフィラキシーは、特にサトウキビ畑での作業から、顔面潮紅と浮腫、頻脈、緩い便、低血圧から考慮する必要がある

しかし、アナフィラキシーでは、尿中頻度の増加や尿量の制限は説明がつかない

またエピネフリンに対する反応の欠如はアナフィラキシーの可能性は否定される

 

・中毒

特に患者がサトウキビ労働者として農薬にさらされていたことを考えると、トキシドローム(毒素または毒物によって誘発される症候群)を考慮すべきで、職業病歴と環境病歴の聴取が必要である

有機リン酸塩の殺虫剤によるコリン作動性毒性は、錯乱、低血圧、頻脈、頻尿、尿回数の増加、および下痢を引き起こすことがあるが、頻脈、縮瞳や発汗がないことから、診断の可能性は低い

抗コリン性毒性は、脳症、視力低下、潮紅、頻呼吸、頻脈、尿閉を伴うが、典型的には腸音の低下、散瞳、および粘膜の乾燥を伴う

頻脈と頻呼吸の存在と散瞳の欠如はオピオイド中毒と矛盾している

 

脱毛の原因には、重金属(例えば、タリウム)とホウ酸中毒がある

ホウ酸は殺虫剤に使用されており、急性中毒は吐き気、嘔吐、青緑色の下痢、びまん性発赤発疹、痙攣、昏睡、急性腎不全、および循環器虚脱を示す

これらの特徴の多くは、患者の症状の顕著な所見と一致している

 

 

追加の問診

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#TSSに対して治療している間、医療チームは、野生のキノコや植物の摂取を含む潜在的な毒性暴露について、患者とその家族に尋ね続けたが、何も報告されなかった。

#入院前に食べた餅を食べた後に中毒性ショックが始まったため、患者の家族は心配していた

入院して約3週間後,患者の家族が医療チームに,この餅はゴキブリ退治に使われるホウ酸とマッシュポテトでできた殺虫剤のボールである可能性が高いと伝えた

毎年、地元の農家がゴキブリ退治用の殺虫ボールを作り、近所に配っている

その年の殺虫ボールの配布は、住民が食用のお土産を持ち帰る地域の宗教的な祭りと重なっていた

患者の家族は、偶然にもホウ酸の入った殺虫ボールを食べたのではないかと推測していた

ホウ酸中毒の診断は、血液透析前(1mlあたり773μg)と透析後(1mlあたり11μg)に得られた血液サンプルの血清ホウ酸濃度の測定によって確認された

患者は入院から4週間後に自宅に退院したが、その時点で血清クレアチン9値は正常化していた(0.89mg/デシリットル[78.7μmol/1リットル])

9ヵ月後、私は偶然にも患者のタクシーに乗ることになった。患者は体調が良く、タクシーの運転を続け、農場で仕事をしていた

 

 

最終診断

ホウ酸中毒

 

 

Teaching points

・生命を脅かす病気にかかった後のびまん性脱毛症は、診断の手がかりとなる。びまん性脱毛は、ヘアサイクルの段階に基づいて分類される

・最も一般的な原因は、重症な全身疾患(中毒性ショック症候群を含む)、薬の開始、または栄養不足などの誘因の後に2〜3ヶ月後に発生し、成長期から休止期に毛包が突然シフトする急性の毛包の休止期である

・成長期脱毛の原因には、重金属(例えば、タリウム)とホウ酸中毒があります。

・ホウ酸は殺虫剤に使用されており、急性中毒は吐き気、嘔吐、青緑色の下痢、びまん性発赤発疹、痙攣、昏睡、急性腎不全、および循環器虚脱を示す

 

・ホウ酸は、火傷の防腐剤、外陰部カンジダ症の治療に使用されている

・成人のホウ酸の致死量は約 15~20 グラムである

・血中のホウ酸の致死濃度は、血中濃度が高くても生存している患者もいるが、1mlあたり約1000μgと報告されている

・ホウ酸中毒患者は無症状であることが多いが、低血圧や代謝性アシドーシスなどの消化器症状、皮膚症状、腎症状、全身症状を呈することがある

・皮膚症状としては、曝露後 1~2 日以内に腋窩、鼠径部、顔面などにびまん性の紅斑性発疹が発生し、発疹発生から 2~3 日後にびまん性の落屑が生じる

・特異的な解毒剤はなく、質の高い支持療法が必要である

・ある症例報告では、血液透析で全身クリアランスが1時間あたり3.5リットルと高いことが示されている

 

 

振り返り

・ホウ酸の存在を知らないと診断にたどり着けないが、日本では身近な殺虫剤であることを知った

・低血圧の原因の診断が難しかったが、びまん性脱毛が鑑別に手がかりとなった

 

Next Step

・トキシドロームの勉強

 

 

 

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原因不明の悪液質

57歳男性、意図しない悪液質
Cryptic Cachexia. N Engl J Med 2020; 383:68-74

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1817531

 

 

病歴より

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#直腸癌があり人工肛門増設後、

#6ヶ月続く、22.6kgの意図しない体重減少と倦怠感を主訴に来院した

#BMIは23.9から16.6へ減少した

#筋力低下が進行し、日常生活動作にも制限が生じるようになった

#腹部の膨満と下肢の痛みを自覚している

#嘔気、嘔吐、食思不審、関節痛、発熱、咳はない

#人工肛門の便は、柔らかく、茶色の有形性で、血液、粘液、油の便ではない

 

 

追加の問診

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#6年前に血便で見つかった直腸癌(T3N1aM0)で人工肛門増設後

#術前化学療法、体外照射、腹会陰切断術を行った

#定期的な下部消化管内視鏡検査(3年前)、CT検査(9ヶ月前)、CEA測定(6ヶ月前)では異常を認めなかった

#非喫煙者、アルコールや違法薬物なし

#ホームレス、囚人、結核患者との接触なし

#食事の習慣に変化はなし

#独居、メカニックとして働いている、2年以上性的活動なし

#母親が胃癌

# Puerto Ricoに生まれ、19歳でコネチカット州に移住、8ヶ月間にPuerto Ricoを訪れた

#下部腰痛に対しイブプロフェンを内服

#腰痛は元々長年あり、自然発生で痛くなる

#直腸癌の診断後、腰痛は悪くなったが、理学療法にて改善した

 

 

 

身体所見・検査所見より

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# 37℃、血圧 94/60mmHg、心拍数 110回/分、頻呼吸、浅い呼吸

#腕、足、側頭筋の筋肉は痩せほとり、悪液質になっていた

#水平方向の眼振が認められた

#頬粘膜は正常、口角炎や異常な色素沈着はなし

#頸部・腋窩・鼠径リンパ節腫脹なし

#腹部は膨隆し、圧痛なし、shifting dullnessあり、左下腹部に人工肛門あり、肛門はピンクで茶色で有形便あり

#下腿遠位に色素沈着あり、色素沈着の少ない斑があり、浮腫はなかった

#MMTは股関節と肩関節は4/5、上腕二頭筋と膝関節は5/5であった

#WBC 7900(好中球 94%、リンパ球 2.5%)、Hb 9.0、MCV 82.6、RDW 19.9%、Ret 1%、血小板 16.4万、血液像 低色素性、正球性の赤血球と杆状球が見られた

#鉄 19 μg/dL、フェリチン 322 ng/mL、葉酸 20.5 ng/mL

#BUN、Cre、T-Bilは正常

#ALT 84 U/L、AST 82 U/L、ALP 157 U/L

#Alb 1.6g/dL、総蛋白 6.4g/dL、プレアルブミン 7.6 mg/dL

#CEA 1.0 ng/mL

#朝のコルチゾール、チロトロピン、および糖化ヘモグロビン値は正常

#トランスグルタミナーゼIgA抗体検査(セリアック病)、 HIV、A型、B型、C型肝炎ウイルスは陰性

#CRP 86.9 mg/L

#尿検査:微量のタンパク尿、蛋白クレアチニン比 0.9

#腹部と骨盤は大量の腹水、肺・肝臓・脾臓・腸・腎臓に異常を認めない、後腹膜リンパ節腫脹を認める

 

 

 

追加検査より

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#血漿-腹水Alb 0.6g/dL、WBC 47個/mm3、好中球 12個/mm3、リンパ球 10/mm3

#腹水 総合蛋白 4.5g/dL、ADA 24.4U/L、細胞診 陰性

#24時間蓄尿:タンパク質 419mg/日

#便α1アンチトリプシン 1.13mg/g (reference range, <0.50)

#蛋白電気泳動:モノクローナルな増殖なし、フリーライトチェーン比正常

#IgG 2080 (reference range, 768 to 1632) 、IgM 30 (reference range, 35 to 263)、IgA 1360 (reference range,68 to 408)、IgGサブクラス:IgG1 1224 (reference range, 382 to 929) 、IgG4 194.2 (reference range, 3.9 to 86.4)

 

#腹水の抗酸菌染色や結核菌のPCRは陰性

#CTガイド下の後腹膜リンパ節生検では、非壊死性の類上皮肉芽腫、多形性のリンパ球の集団であった

#グラム染色、抗酸菌染色は陰性、悪性細胞やIgG4陽性の形質細胞は陰性

#グロコットメテナミン銀染色 、PAS染色は陰性

#下部消化管内視鏡検査では軽度の活動性腸炎、肉芽腫なし、クリプト膿瘍や異形成なし

#上部消化管内視鏡検査では十二指腸にびまん性の活動性の炎症、上皮内リンパ球の増加なし、腸絨毛の扁平化なし、

#生検部位の抗酸菌染色や結核菌のPCRは陰性

#十二指腸の粘膜固有層に泡状組織球の巣状集合体があり、PAS染色で陽性となった

 

 

 

診断に迫る検査は?

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#PCRではT. whippleiが陽性となった

# PAS染色した試料は棒状構造を示したWhipple’s diseaseに特徴的な所見を認めた

#身体所見を念入りに取ると、咀嚼時に輻輳眼振、咀嚼に伴う眼球のリズミカルな動き(oculomasticatory myorhythmia)を認めた

 

 

 

最終診断:Whipple’s disease

 

転機)セフトリアキソン 2g/日 4週間を開始した。投与2日目に発熱、bandemia、呼吸不全、低血圧を認め、 Jarisch–Herxheimerと考えられた

挿管し、4日後に抜管できたが2週間BiAPが必要となった

セフトリアキソンで1ヶ月治療後、可動性が改善され、腰痛が軽減された

BMIは17.9まで上昇した、眼振は改善した、Alb 2.3g/dL、肝酵素も正常化した、腹水と貧血は持続した

経口コトリモキサゾールを1年間計画し、リハビリを終えた後 Puerto Ricoに帰った

 

 

teaching points

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Whipple’s disease

・至るところにある環境常在菌

・無症状の人の20%のうちの便から検出される、臨床症状は年間100万人に1人の割合でしか発生しない

・症状を発する人は男性が多く、ヨーロッパ系の先祖が典型的にかかりやすい

・ウィップル病は古典的に関節痛、腹痛、下痢を伴う

・症例報告シリーズでは、関節痛と下痢が70-80%で見られ、腹痛は55%

・体重減少(92%)、低アルブミン血症(91%)、貧血(85%)、リンパ節腫脹(60%)も見られ、これらの症状は診断の6-8年前に見られる

・ oculomasticatory myorhythmia(20%)、日焼け黒皮症(40%)、非壊死性肉芽腫のリンパ節(9%)、腹水 (8%)

・50%に中枢神経浸潤が見られる

・脊椎炎による腰痛がまれに見られる

・診断にはPAS陽性マクロファージの組織学的検査、PCR、ウィップル病特異的抗体による免疫組織化学的検査があるが、診断には3つのうち少なくとも2つが陽性になることが必要である

・PAS陽性の泡状マクロファージ(histiocytes)は非特異的、免疫組織化学的検査やPCRは感度、特異度共に高い

・希少性と非特異的な症状や所見が多いため、診断が遅れることが多く、治療をされないままだと致死的

・ blood–brain barrier を通過する抗菌薬の長期投与が必要

・レジメンとしては、14日間のセフトリアキソン(CNS浸潤がある場合、より長期)で加療後、1年のST合剤のメニューがあり、中央値89ヶ月で95%が寛解した

・別の試験では、 ST合剤を1年と3ヶ月で比較した研究があり、治癒率や寛解率には差が見られなかった

・ガイドラインはないが、専門家は治療後6か月と12ヶ月後に十二指腸の生検を推奨している

・もし陽性であれば、代替の抗菌薬治療が必要である

・生涯の再発率は30%と高い

・ ウィップル病の治療を受けた患者は再発の危険性と致命的な結果を認識しておくべきである

 

 

 

振り返り

・知らないと想起できない、体重減少(92%)、低アルブミン血症(91%)、貧血(85%)、リンパ節腫脹(60%)でも想起できるようにならないといけないか・・・

 

 

Next Step

・IgG1、IgG4の比の解釈の見方

・α1アンチトリプシンの解釈

 

 

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62歳男性、 転移性の非小細胞癌、筋力低下、食思不振、下痢

62歳男性、 転移性の非小細胞癌、筋力低下、食思不振、下痢
A Fiery Pivot. J Hosp Med. Published Online First June 17, 2020.
https://mdedge-files-live.s3.us-east-2.amazonaws.com/files/s3fs-public/issues/articles/pueringer04560617e.pdf

 

 

#62歳男性、転移性非小細胞肺がん、3日間の進行する筋力低下、食思不振、非血性下痢

#発熱、悪寒、嘔気、嘔吐、咳嗽、息切れ、腹痛はなし

#sick contactなし

 

 

 

#2日前に急性期病院で非重症のCD腸炎と診断され、メトロニダゾールを内服したが、翌日下痢が増悪し筋力低下、食思不振を伴った

#既往歴:未治療のHCV、CKD G3、てんかん、左肺の非小細胞肺がん(腺癌)

#8ヶ月前に血痰で診断、3ヶ月前に進行する全身症状

#画像検査では、対側の肺、局所リンパ節、椎体、肋骨と骨盤に転移を認めた

#腹部に転移は認めなかった

#カルボプラチンとパクリタキセルで治療された

#PRとなり、末梢性神経障害のため12週前にゲムシタビンに変更された

#最後の化学療法は、2週間前にゲムシタビンを投与された

#追加の化学療法や免疫療法は受けていなかった

#喫煙歴は40年で肺癌と診断され禁煙した

#飲酒なし、旅行歴やsick contactなし

#常用薬なし

#ホームレスだったが、家族のところに泊まっていた
#出血、打撲、喀血、下血、血便、血尿はない

 

 

身体所見・検査所見

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#倦怠感あり、 体温 36.8℃、血圧 158/72 mm Hg、脈拍88回/分、呼吸数 16回/分、酸素飽和度 96%(RA)

#強膜黄染や結膜充血なし、軽度の結膜蒼白あり

#腹部は腸蠕動音正常、圧痛なし、臓器腫大なし

#鎖骨上、腋窩、鼠径部にリンパ節腫脹なし

#脳神経系Ⅱ〜Ⅻまで異常なし

#四肢の筋肉量は減少していたが、局所ではない

#WBC 5500、Hb 5g/dL、血小板 2万(1ヶ月前は23万)

#Cre 3.9、BUN 39、Na 137、K 4.2、CL 105、HCO3 22、TSH 0.9、TP 4.9、Alb 2.1、ALP 60、ALT 17、AST 60、D-Bil 0.2、T-Bil 0.5

#胸部X線:浸潤影なし

 

 

#尿検査では、琥珀色の希薄な尿、白血球・赤血球・蛋白・円柱なし

#尿は血液が陽性だが、ビルルビンやヘモジデリンはなし

# LDH 1,382 IU/L 、ハプトグロビン低値、フェリチン 2,267 ng/mL、血清鉄 57 mcg/dL、TIBC 241 mcg/dL、トランスフェリン 162 mcg/dL、網状細胞数 6%、ビタミンB12正常

#INR、APTT正常

#直接抗グロブリン試験陰性

#フィブリノゲン 287mg/dL、 D-ダイマー 5,095 ng/mL

 

 

#血液製剤の使用はなかった、前回入院時ヘパリンを使用していた

#マダニ暴露の既往はない

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

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#末梢血液像では破砕赤血球、球状赤血球はない、熱変形赤血球を示した

 

 

 

 

最終診断:ゲムシタビンによるTMA+CD腸炎による感染、による後天性熱変形赤血球症

 

#患者は赤血球輸血を受け、大量補液を施行された

#CD腸炎は経口バンコマイシン+IVでのメトロニダゾールで治療された

#3日後、血小板数、Hb、Cre、倦怠感は改善した

 

 

 

leaning points

・がん関連の可能性と非関連の可能性と分けて考える

・溶血は急性に起こったものと考えられる、慢性であれば尿中にヘモジデリンが検出される

・TMAの患者は、ADAMTS13の結果が分かるまで、血漿交換をやるべき

・MAHAが否定された場合、PNHなどを考える

・他に全身性疾患では、重症な火傷、行軍ヘモグロビン尿症、心臓の機械弁、免疫性の溶血、寒冷凝集素症、不適合輸血、感染症(malaria, Bartonellosis, Babesiosis, Leishmaniasis, Clostridium perfringens, Haemophilus influenzae B.)

・破砕赤血球がないという情報はTTPやHHSを除外しないが、可能性は下がる

 

・血液塗抹では、意外な所見として熱変形赤血球が見られた

・熱傷やまれな膜の構造的欠陥でみられる

・遺伝性熱変形赤血球症は非常に稀

・遺伝性熱変形赤血球症は脾腫大、網状赤血球症、黄疸を認める

 

・後天性熱変形赤血球症は、重症熱傷や薬物誘発性TMAおよび重症細菌血流感染症(主にGNR)で見られる

・ゲムシタビンによりTMAが生じる可能性がある(TTPより腎障害生じやすい、ADAMTS13がそこまで低下しないこともある)

 

 

 

振り返り

・末梢血液像で破砕赤血球が出るかと期待していた

・ゲムシタビンによるTMAを想起しなければならない

・CD腸炎の腸管外症状として、稀だが上記のような血管内溶血が生じる可能性が起こることがわかった

 

 

Next Step

・熱変形赤血球はどうやって末梢血で見るのか?

 

 

 

 

 

大量の嘔吐と下痢、血圧低下

44歳男性、オーストラリア、大量の嘔吐と下痢、血圧低下
A Sickening Tale. N Engl J Med. 2018;379(1):75‐80.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1716775

 

 

病歴より

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#3日間の大量の嘔吐、非血性の下痢、血圧低下

# pH 7.29、HCO3 17mmol/L、Na 127mmol/L、K 2.5mmol/L、Cl 102 mmol/L、糖 286 mg/dL

 

・急性の下痢や嘔吐は、感染症を考える

・ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、および黄色ブドウ球菌感染症などの細菌感染症

・正常なアニオンギャップを有する代謝性アシドーシスは消化管による喪失と一致している

・糖尿病性ケトアシドーシスを除外する必要がある

 

追加の病歴

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#飲酒はたまに飲む、違法薬物の使用歴はない、

#オーストラリアのノーザンテリトリーの人里離れた土地で一人暮らしをしており、牛、水牛、豚、ワニなどの動物と一緒に働いていた

#クロルピリホス(有機リン酸系殺虫剤)やメツルスルフロンメチル、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)などの除草剤に職業的に暴露していた

#ヒ素系農薬への曝露は知られていなかった

#彼は保護具を着用しておらず、しばしば裸足で歩いていた

#発病の3週間前から踵が乾燥してひび割れており,発症前の2週間はモンスーンの雨の後牛舎を歩いたり,淡水のダムから水を飲んだりしていた

 

・人獣共通感染症、土壌からの感染症、トキシドロームの鑑別の可能性が広げる

・レプトスピラ症(消化器症状)

・ Burkholderia pseudomalleiによるメリオイドーシス(菌血症や腹腔内膿瘍、胃腸症状)

・クロルピリホス(有機リン酸系殺虫剤)は、皮膚から容易に吸収され、呼吸器分泌物の増加、徐脈、低血圧、脱力感、筋痙攣、縮瞳などのコリン作動性トキシドロームを起こす

・メツルスルフロンメチル、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)などの除草剤は、消化管毒性作用があり、経口摂取後にアシドーシスを引き起こすが、経口摂取のエピソードはない

・ヒ素中毒やタリウム中毒は、初期の重度の胃腸を引き起こす

 

 

身体所見・検査所見より

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#発熱なし、血圧75/46 mm Hg、心拍数106回/分

#肺・腹診は異常なし

#瞳孔は径・対光反射正常、

#口腔内病変や過剰分泌物は認められない

#過角化症と深い色素沈着と亀裂が手足に観察された

#神経学的な検査は正常

#心電図では洞性頻脈、 QTcが406s、虚血性変化は認められなかった

#Hb 15.4g/dL、WBC 8000(好中球 80%、リンパ球 10%)、血小板 28.1万、

#Na 128、K 2.6、Cre 3.1、Cl 104、HCO3 17、BUN 72.5、T-Bil 2.2、ALT 61、CRP 67.2、PT 19.8、

#ケトン 0.2 mmol/L、HbA1c 6.1%、尿検査異常なし

 

・明らかなコリン作動性トキシドロームはなし

・除草剤は対症療法となる

・重金属中毒の可能性は高い、血液と尿検査を迅速に検査に提出する

・発熱や炎症反応上昇はないが、感染症も否定できない

・レプトスピラ であれば、急性腎障害、低カリウム血症、低ナトリウム血症、肝機能障害、リンパ球減少を説明できる

・Q熱やリケッチア症も鑑別

 

低血圧をきたしたため、ICU入室

メロペネム、バンコマイシン、ドキシサイクリンを開始

 

#血液・尿培養は陰性

#入院3日目、下痢と嘔吐が改善

#Clostridium difficile、ジアルジアとクリプトスポリジウムは陰性

#HIV陰性

#レプトスピラ 抗体陰性
#B. pseudomalleiに対して1:640の力価があるが、 B. pseudomalleiの咽頭や直腸からの検出はない

#CT:少量の胸水と骨盤内に少量の腹水があるが、浸潤影や膿瘍はない

#心エコーや肝臓の腹部エコーは問題ない

 

・ B. pseudomalleiの既感染を示すが、現在は感染はactiveではない

 

#ICUでは、焦燥感と幻覚によるせん妄が発生した

・せん妄の原因には、 ICU入室、睡眠不足、認識されていない痙攣や原病が重症化している可能性がある

 

#腰椎穿刺ではタンパク質とブドウ糖は正常、培養は陰性

#PCRではヘルペスやエンテロウイルスは陰性

#頭部MRIは正常

#AKIは改善した

 

抗菌薬は7日間の投与で終了した

 

#肝障害が進行、ALT 253、G-GTP 1135

#入院7日目、汎血球減少が急速に進行(Hb 8.1、WBC 1600(好中球 25%、リンパ球 48%)、血小板 5.9万)

#ビタミンB12、葉酸は正常
#フェリチン 1779、

#血液像では正常正色素の赤血球と異形リンパ球、 toxic granulationのある好中球

 

・急速進行性の汎血球減少は、血球貪食症を考慮すべき

・溶血性尿毒症症候群のような血栓性微小血管症の可能性もあるが、白血球が低いことが合わない

・抗菌薬による影響も鑑別

 

#骨髄穿刺では赤血球生成障害(dyserythropoiesis)を示した

#せん妄は治ったが、入院9日目手と足よりピリピリした感覚を自覚した

#位置覚がなかった、振動覚はあった、残りの神経学的検査は異常なし

 

・対称的な長さ依存性の感覚障害は急性多発神経症状を認めた

・ギランバレー症候群も鑑別だが、感覚だけの障害は珍しい

 

 

 

診断は?

 

 

 

診断に迫る検査は?

**************************

#ヒ素 尿から4812μg/L、血液から323 μg/L

#61%の三価ヒ素、 4% の5価砒素酸、 17%のモノメチルアルソン、 16%のジメチルアルセン酸

 

・嘔吐下痢、腎障害、肝炎、せん妄、汎血球減少症、色素沈着、神経障害はヒ素中毒と最もあう

 

最終診断:ヒ素中毒

 

 

5日間、1日3回、10mg/kgで2,3-ジメルカプトコハク酸でキレートを開始した

ヒ素中毒の特徴的な爪の変化(Mees lines)を認めた

キレーション治療3日目に小水疱性発疹が上腕部に発症した、48時間で汎発した(VZVが陽性)

 

・ヒ素中毒とVZV再活性化は報告されている

 


神経症状は、手袋靴下型から、肩や会陰まで感覚障害が広がった

歩いたり立つことができなくなった

経口的にユチオール(ナトリウム2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸)を投与した

尿中のヒ素は少なくなった

退院して4ヶ月で足の位置覚の障害は残るものの、足首足部装具を使用して歩行できるようになった

環境衛生調査が行われ淡水よりヒ素が発見された

ノーザン・テリトリーでは、高レベルのヒ素が金の探鉱地周辺で発見された

 

 

teaching points

ヒ素について

・市販のヒ素は金属強化合金、塗料顔料として使用される

・三酸化ヒ素は急性前骨髄球性白血病とアフリカトリパノソーマ症の治療薬として使用される

・無機ヒ素はアルゼンチン、バングラデシュ、チリ、中国、インド、メキシコと米国では地下水に存在する

 

ヒ素中毒について

・急性のヒ素中毒はまれであり意図的なものであることが多い

・数分から数時間の間に発展し、症状が進行する

・典型的には嘔吐、腹痛と激しい水様下痢などの消化器症状から始まる

・過剰な唾液が出てニンニク臭い息が出る

・せん妄、痙攣、昏睡状態になり、腎機能障害、肝機能障害、ARDS、心機能障害(QTc延長と不整脈)を起こす

・重症ではない場合、胃腸炎が持続し、軽い血圧低下と金属の味がするなど粘膜障害を起こし、咽頭炎の症状と似ている

・初期の症状を乗り切ると、肝炎や汎血球減少を発症する

・ 骨髄抑制は2~3週間で最大となる

・痛みを伴う末梢の神経障害は通常1~3週間で発症する

・慢性中毒の場合、診断はより困難になる

・皮膚症状および末梢神経障害は、消化器症状よりも顕著である

・慢性の暴露は、皮膚がん、膀胱がん、肺がんのリスクが高くなる

 

 

 

振り返り

・ヒ素の明らかな暴露がなくても、淡水などの飲水が原因となりうる

・人獣共通感染症、土壌からの感染症、トキシドロームなど鑑別が広くなる症例だった

 

 

 

Next Step

・赤血球生成障害(dyserythropoiesis)の鑑別は?

 

 

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頭痛、低酸素血症

27歳女性、頭痛、低酸素血症
27-Year-Old Woman With Fever, Headache, and Anemia. Mayo Clin Proc. 2020;95(6):1276‐1280. 
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(20)30155-5/pdf

 

 

病歴より

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#27歳女性、発熱、頭痛、貧血を主訴に来院。

#自己免疫性多内分泌腺症候群、副腎不全、自己免疫性甲状腺炎、再発する血流感染症、胃不全麻痺

#PICC挿入しTPNを使用している

#DVT、PE、低ガンマグロブリン血症

#鉄とビタミンB12欠乏症による慢性貧血で、複数回の赤血球輸血が必要になる

#常用薬: cholecalciferol, cyanocobalamin, enoxaparin, fludrocortisone, hydrocortisone, midodrine, pantoprazole, and dapsone

#長期のコルチコステロイド療法で免疫抑制され、 Pneumocystis jiroveciiの予防のためダプソンを服用している

# 2年以上にわたり、 Enterococcus faecalis、 Candida tropicalis による菌血症、MRSAによる皮膚軟部組織感染、インフルエンザ後肺炎球菌性肺炎、再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症で糞便移植を必要とした

# P jiroveciiの予防のためST合剤を使用していたが、CD腸炎のためダプソンに変更した

#2ヶ月前にEnterococcus faecalisのCLABSIに対しダプトマイシンで加療に成功した

#治療し3週間後まで元気だったが、発熱、悪寒、筋肉痛が出現し増悪したため、救急外来を受診した

 

身体所見

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# 意識清明、38.5度、 101/71mmHg、 120拍/分、 16回/分、SpO2 99%(RA)

#Cushing様体型、中心性肥満、丸顔

#右上肢PICCと周囲の皮膚は正常で、感染兆候なし

#項部硬直なし、神経学的異常所見なし

#他に身体所見で目立つ所見はない

 

検査所見

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#血液検査:Hb 7.7 g/dL、MCV 86.1、血小板 30.5万、網状球数、3.77%、白血球 11900(好中球 7910、リンパ球 640、単核球 330、好酸球 30、好塩基球 30)、Na 140、K 4.2、Cl 104、HCO3 27、BUN 17、Cre 0.61、

#血液培養、尿培養は結果待ち

#胸部X線:異常なし

 

この時点で発熱の原因はよくわからなかった

入院して頭痛が増悪し、腰椎穿刺を行った

腰椎穿刺から7時間後、院内急変チームが低酸素血症でコールを受けた

 

#呼吸数 22回/分、5Lの酸素需要でSpO2 88%

#118/68mmHg、91回/分

#呼吸困難はないが、胸部圧迫感を自覚した

#胸部の聴診では両側清明、心音も雑音や頻脈なし

#神経所見変化なし、皮膚は口腔周囲のチアノーゼを認めた

#血液ガス検査: pH 7.43、 PCO2 37 mm Hg、 PO2 167 mm Hg、HCO3 25 mmol/L、SaO2 81%、酸素飽和度ギャップ 7%

 

 

 

 

診断は?

 

 

 

・酸素飽和度ギャップとは、パルスオキシメトリによる酸素飽和度測定値と実際の酸素飽和度測定値の差を示す

・正常な酸素飽和度ギャップは5%以下

・一酸化炭素ヘモグロビン血症は酸素飽和度ギャップを開大させるが、今回のケースでは(入院しているため)原因になりにくい

・スルフヘモグロビン血症では酸素飽和ギャップが開大するが、酸素飽和度極線では右にシフトするため、酸素は末梢で酸素が放散される

・臨床的症状に乏しい点はあうが、可能性は低い

・メトヘモグロビン血症は酸素飽和度極線では左にシフトし、酸素飽和ギャップが開大する

・ヘムタンパクの鉄が2価から3価に変わり、酸素と結合することができなくなる

 

# carboxyhemoglobin<1.0% 、sulfhemoglobin 0.4% 、methemoglobin 18.1% (<1.5%)

 

 

最終診断:メトヘモグロビン血症

 

・鉄を3価から2価に還元するメチレンブルーが適切な治療である

・10分から60分以内にmethemoglobin を10%以下にできる

・一般的にはmethemoglobinが20%以上、症状が重篤な場合に使用される

・ダプソンやリドカインがmethemoglobin血症のリスクファクターと考えられた

・それぞれ半減期は30分(ダプソン)、2時間(リドカイン)である

・チョコレート色の血液がmethemoglobin血症に特徴的である

 

 

 

患者の転機:メチレンブルーは使用せず支持療法を行なった、その日の夜にはSpO2 91%に回復した

2日後、 methemoglobinは0.7%に改善した

5日後、各種培養は陰性だった

その後、発熱と頻脈があり、培養より腸内細菌や真菌が検出され、PICCを抜去、経管栄養や経口での抗菌薬に変更した

 

 

Teaching points

・チアノーゼや低酸素血症で酸素投与をしても改善しない場合、メトヘモグロビン血症を鑑別に考える

・メトヘモグロビン血症は3%以上が診断基準だが、10%を超えると症状が顕著になる

・35%以上になると、頭痛、疲労、倦怠感、呼吸困難

・60%以上では、不整脈、痙攣、血管虚脱、死亡が起こる

・ダプソンの使用がメトヘモグロビン血症を想定させたが、ダプソンと麻酔薬の使用、抗マラリア薬、メトクロプラミド、硝酸薬の併用がメトヘモグロビン血症をよく生じる原因になる

・メチレンブルーを溶解させて、1mg〜2mg/kgを経静脈的に5分以上かけて投与する

・1時間以内にチアノーゼや低酸素血症が改善しない場合、上記の容量で再投与する

・メチレンブルーはG6PD欠損や妊婦には禁忌である、その場合アスコルビン酸を使用する

 

 

 

振り返り

・複雑な症例だったが、血液ガスの結果より一発診断であった

・チョコレート色の血液でも想起したい

 

Next Step

・スルフヘモグロビン血症とは?

 

 

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腎移植後の労作時の呼吸困難、発熱

56性、日本人、腎移植後患者の労作時の呼吸困難、発熱
Past is PrologueJ. Hosp. Med 2019;8;501-505.
https://mdedge-files-live.s3.us-east-2.amazonaws.com/files/s3fs-public/issues/articles/jhm014080501.pdf 

 

 

病歴より

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#20年前に腎移植後
#1日前の39度の発熱、悪寒

#2ヶ月前までは生来健康であったが、緩徐に労作時の呼吸困難を自覚した

#100m歩くと息切れがする

#胸痛、咳、浮腫、発作性夜間呼吸困難なし

 

・労作時の呼吸困難は、心臓、肺、血液、神経筋疾患が疑われる

・腎移植後患者では、アスペルギルス、CMV、ニューモシスチスも考えられる

・血管炎や移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)による腎障害、からの心不全も考えられる

・sub-acuteな労作時の呼吸困難とacuteな発熱が同じ疾患なのか、別の疾患なのか

 

追加の情報

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#既往歴:膜増殖性糸球体腎疾患腎症(MPGN)により末期腎不全、20年前にrelated-donorから腎移植、 2型糖尿病,高血圧症、顔面基底細胞癌(3年前)

#常用薬:プレドニゾロン15mg/日、アザチオプリン 100mg/日、シクロスポリン100mg/日、およびアムロジピンとカンデサルタンを服用

#妻と子供と暮らしている
#動物や環境への暴露はない
#喫煙なし、飲酒なし、渡航歴なし
#父親は糖尿病

 

・免疫抑制剤の使用は、リンパ腫や皮膚癌などの悪性腫瘍のリスクが高まる

・今回のケースではPCP予防が入っていなかった

・PCPの予防が必要なくなった移植から何年か経った症例がPCPを発症することが多い

 

身体所見

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#意識清明、 38.5℃、血圧120/60mmHg、心拍数146回/分、呼吸数18回/分、酸素飽和度 93%

#顔面蒼白や黄疸なし、頸部リンパ節腫脹なし

#心音は頻脈と規則的なリズム、正常なS1とS2、そして雑音、摩擦音、ギャロップ 頸静脈怒張、下腿浮腫なし

#肺は聴診で明瞭

#腹部は軟らかく、圧痛がなく、拡張もない

#移植された腎臓に巧打痛なし、肝脾腫はなし

 

・免疫抑制患者の肺炎はウイルス(呼吸器ウイルス、CMV)、細菌(一般細菌、 Nocardia, Rhodococcus)、抗酸菌、真菌(Aspergillus, Candida, Cryptococcus,Pneumocystis, and endemic mycoses)

・ PTLDがリンパ節外病変を起こすことはある、移植後1年で最も生じるがいつでも生じる

 

検査所見

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#WBC 3,500, Hb 9.0, MCV 102, Plt 137,000, Na 130, K 4.6, BUN 41, Cre 3.5,

#血算や電解質は変わりなし
#LDH 1895, フェリチン 2,114

#胸部X線では肺底部に空気の入った不透明像を認めた

 

細菌性肺炎に対してセフトリアキソンで加療した

 

・慢性的な汎血球減少症は、アザチオプリンやシクロスポリンの影響、多系統疾患による骨髄抑制や浸潤、または栄養不良などが挙げられる

・血球貪食症候群も鑑別である(2020/5/15を参照)

・LDHは細胞の破壊を示しており、肺感染症(PCP)や悪性腫瘍(PTLD)の可能性があるかもしれない

 

 

 

アザチオプリンとシクロスポリンを中止した。抗菌薬を投与したにもかかわらず、発熱したままであった。

低酸素症が悪化して酸素飽和度が5L/minの酸素投与で90%~93%だった

入院2日目

#CTで両側肺底部にすりガラス陰影を認めた

#血液、喀痰、尿の培養は陰性

 

CMV感染症に対しガンシクロビル、非定型肺炎にシプロフロキサシン、 Pneumocystisに対しST合剤を開始した

 

 

・多巣性のすりガラス陰影の鑑別は、感染性肺炎、慢性間質性肺疾患、急性肺胞障害(例:心原性肺水腫、ARDS、びまん性肺胞出血)、他の原因(例えば、薬物毒性、気管支肺胞癌、特発性器質化肺炎)

・感染ではPCP(発熱、低酸素血症、LDH上昇、両側性の肺浸潤、胸部のリンパ節腫脹がないこと、胸水がないこと)、CMV(発熱、低酸素血症、両側すりガラス陰影、汎血球減少症)、呼吸器系ウイルス、真菌性肺炎

・PTLD((発熱、LDH上昇、肺浸潤影)も鑑別

・しかし、肺性PTLDは肺移植患者に多く、腎移植患者には消化管、中枢神経系、またはリンパ節のPTLDが多い

・画像も今回の症例では非典型的である(通常、肺底部に網状影、結節影、多発腫瘤、リンパ節腫脹を特徴とする)

 

 

抗生物質と抗ウイルス剤による経験的治療にもかかわらず、発熱は持続し呼吸数は1分間に30回まで増加、FiO2 40%必要となった

入院5日目、

#胸腹部造影CT検査は両側の上部に新しい浸潤影を認めた

#膵臓に腫瘍はないが、低吸収の部分を示した

#BALではPneumocystis jiroveciiがPCRで陽性

#CMV直接免疫ペルオキシダーゼ染色が陽性(7.35×10の4乗 個あたり5個の細胞で陽性)

#EBV:VCA-IgG陽性、VCA-IgM 陰性、EBNA-IgG陰性

#可溶性インターロイキン-2  5,254 U/mL

 

プレドニゾロンの投与量を30mg/回に増量し、解熱しFiO2 35%に下がった

 

・労作性呼吸困難の2ヶ月後、患者は急性に持続熱と進行性の熱を発症した、二相性の臨床経過を考慮する

・PCPはこの患者の疾患の2nd phaseを説明するだけかもしれません

・CMV肺炎の診断はBALでPCRを提出することが必要である

・CMV感染は、血小板減少、HLH、膵浸潤と関連し、真菌感染やEBV-PTLDのリスクをあげる

・EBVはPTLDの原因になる可能性がある

・EBVやPTLDがPCP感染になった説明になる

・最終的にCMV、EBV、PTLDはHLHのトリガーになった可能性がある

・HLHの治療で使用されるシクロスポリンを使用していたため、HLHがmuteされていた可能性がある

 

 

入院11日目、

大量吐血によるショックで集中治療室に移された

#Hb 5.9のため、18単位の輸血を行った
#LDH 4139, フェリチン 7,855 ,

#EBVの血清PCRは1×10の6乗コピー/mL(正常値 2×10の2乗コピー/mL未満)

 

EBV関連HLHを考慮してメチルプレドニゾロン(1日1g、3日間)を開始し、デキサメタゾンとシクロスポリンに移行した
セフタジジム、バンコマイシン、ST合剤、シプロフロキサシン、アンホテリシン-B、ガンシクロビルを投与した

 

入院22日目、

昇圧剤や輸血にもかかわらず、ショック状態が続き死亡した

 

・臨床検査ではEBVウイルス感染症と血清LDHの上昇を認めた

・ EBV感染は消化管でPTLDを誘発した可能性がある

・ステロイド投与やストレスで消化管粘膜や消化管PTLD病変から出血したのかもしれない

・全体的に患者の状態はEBV感染とそれによってHLHと消化管PTLDを合併した可能性が高い

 

剖検では、EBV RNA陽性、CD20陽性の異形リンパ球が多臓器(骨髄、肺、心臓、胃、副腎、十二指腸、回腸、腸間膜)で認められた

 

最終診断:EBV陽性の移植後リンパ増殖性疾患(EBV-PTLD)

 

teaching points

・EBV、CMV、RSウイルスなどは直接感染を起こす一方で、移植患者には間接的な影響(アスペルギルス、ニューモシスチス感染、拒絶反応、腫瘍(PTLDなど)を及ぼすことがある

PTLDについて

・固形臓器移植患者や免疫抑制患者で重篤な合併症となる

・多くのケースがEBVにより引き起こされ、T細胞減少と関連がある

・腎移植患者では0.8-2.5%(肝移植では1-5%、肺移植では3-10%)の頻度

・死亡率は40-70%と高い

・PTLDのリスクは、T細胞の強い免疫抑制、移植前の悪性腫瘍歴、EBV(-)のレシピエント、EBV(+)のドナー

・移植患者が、全身症状、リンパ節腫脹、血球減少、LDH上昇、EBV DNA検出がある時に疑う

・肺、消化管、骨髄などの節外病変がPTLDでは他のリンパ腫より一般的

・生検での診断がゴールドスタンダード

・治療は免疫抑制剤の減量が1st だが、リツキシマブなどが2nd 選択として臨床研究をされている

 

 

 

振り返り

・EBV:VCA-IgG陽性、VCA-IgM 陰性の情報では既感染パターンか再活性化かいつも解釈が悩ましい(抗体強陽性では再活性化が疑わしいが)

・移植後患者の全身症状をきたす疾患の1つに移植後リンパ増殖性疾患を想起することが重要

 

Next Step

・CAEBVも含め、本当にEBVを疑う際はEBV-DNAを測るしかないか?

EBVについて

EBV活性化について

 

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数ヶ月続く両側の足首の疼痛

63歳女性、数ヶ月続く両側の足首の疼痛
The Game Is Afoot. N Engl J Med 2020; 382:2249-2255
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1913599

 

 

病歴より

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#数ヶ月続く両側の足首の疼痛

#2年前に左脛骨高原骨折をしている

#DXAスキャンのTスコアは、大腿骨頚部で-1.9、股関節全体で0.0、脊椎で0.4

#左膝の骨折に関連した疼痛は最初は理学療法で軽減したが,その後,その膝に痛みが悪化し,新たに左大腿骨内側顆の骨折が認められた、保存的治療で痛みは再び軽減した。

#両足首に疼痛が進行し、間欠的に松葉杖と杖を使っていた

#発熱、体重減少、他の場所での痛みはない

 

・外傷歴がない場合、左大腿骨内側顆の骨折の原因に骨格不全または病的骨折が挙げられる

・病的骨折と不全骨折の鑑別診断には、多発性骨髄腫や固形腫瘍の転移などの腫瘍性のほか、骨軟化症、骨粗鬆症、骨Paget病、副甲状腺機能亢進症による線維性嚢胞性骨炎などの代謝性も含まれる

・最初のDXAの結果は骨減少症と一致していたが、骨量は臨床症状を説明するのに十分な異常ではない

 

追加問診

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#既往歴:乳癌( 10年前に乳腺摘出術とタモキシフェンの5年コースで治療された、治療終了後、年1回のマンモグラムと乳房の臨床検査に異常はない)、子宮筋腫(16年前に子宮全摘出術と両側卵巣摘出術)と閉塞性睡眠時無呼吸症

#喫煙歴、アルコール歴、違法薬物なし
#内服歴:カルシウムとビタミンDサプリメント(500mgのカルシウムと400IUのコレクカルシフェロール、毎日服用)とマルチビタミン剤

#家族歴は、父親が大腸がん、母親が乳がん、両親は80歳頃で股関節骨折

#結婚しており、2人の子供がおり、接客業に従事していたが足首の痛みのため仕事ができていなかった

#X線では左大腿骨内側顆、 左近位脛骨骨幹端の骨折に横方向に配向した線状の硬化性密度があり、不全骨折の一致した所見であった

 

・子宮卵巣全摘術歴は骨粗鬆症の危険因子であるが、タモキシフェンの閉経後の使用は骨粗鬆症保護効果がある

・家族歴は、骨脆弱性の家族素因の可能性がある

 

身体所見より

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#両足首に圧痛と可動域の低下があったが、腫脹や紅斑はなかった

#膝には、変形、紅斑、温感、圧痛、可動域の低下は認められなかった
#MMTは上肢と下肢で5/5

・骨軟化症に見られる低カルシウム血症では、 Chvostek徴候(顔面神経を打撲した後の同側顔面筋の収縮)およびTrousseau徴候(収縮期血圧以上の血圧計を膨らませた後の手足の痙攣)が見られるかもしれない

・除外すべき検査異常は、低カルシウム血症、低リン酸血症、ビタミンD欠乏症、腎・肝機能障害、栄養疾患や癌を示唆する血液学的異常である

 

 

検査所見より

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#足首のX線写真には骨折は認められなかった。

#血清カルシウム値は8.6mg/dL、アルカリホスファターゼ値は185U/L

#白血球数は10,210、Hb 14.9、血小板数 258,000

#電解質、腎臓、肝機能検査の結果は正常範囲内

#25-ヒドロキシビタミンD値 31ng/mL (20-80)

 

・アルカリホスファターゼ値の上昇は、おそらく骨のターンオーバーの増加の結果であり、肝臓に起因するものではない、Paget病、骨軟化症、副甲状腺機能亢進症などが考えられる

・X線写真の結果はPaget病の典型的な特徴を示していない

・リンの値は評価されておらず、不全骨折患者の評価において重要である

 

追加検査より

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#放射性物質を用いた骨スキャンでは、左右の脛骨遠位部、左腓骨遠位部、右踵骨を含む足首に新たな不全骨折がいくつか認められた

#肋骨、椎骨、脛骨近位部、大腿骨遠位部にも不全骨折が認められた

 

 

 

診断は?

 

 

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

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#P 1.4 (2.4-4.3)、カルシトリオール 14pg/mL (18-78)、PTH 57pg/mL (15-65)

 

 

 

・骨軟化症が鑑別に最も考えられる

・十分な25-ヒドロキシビタミンD、Caもあまり低値ではない点から、栄養が原因の骨軟化症は考えにくい

・後天性または遺伝性の低リン血症を疑う

 

 

・リンは、副甲状腺ホルモン、FGF-23、カルシトリオールという3つのホルモンによって調節されている

・FGF-23は2つの方法で血清リン酸塩濃度を低下させる

・ナトリウム-リン トランスポーターの調節を低下させ腎臓近位尿細管でのリンの再吸収を阻害する

・カルシトリオールの合成を低下させ(腎臓の1-α-水酸化酵素の阻害による)、異化を促進させることにより(24-水酸化酵素の刺激による)、リンを低下させる

・腎性の低リン血症の原因は、FGF-23に依存性または非依存性の機序がある

・今回のケースではカルシトリオールが低い原因は、FGF23を介する腎性の機序である

・ FGF-23に非依存性であればカルシトリオールは上昇するはず (ナトリウム-リン トランスポーター変異による遺伝的機序で起こる)

・非腎性の低リン血症の原因は細胞内シフト、intake不足、吸収不良が挙げられる

・下痢の既往やP吸着薬の使用、家族歴を問診するべき

 

 

#下痢やP吸着薬の使用、低リン血症の家族歴はなかった
#P 1.4mg/dL、Cre 0.55mg/dL、尿P 48.7mg/dL、尿Cre 53.6mg/dL

 

 

・FE P(fractional excretion of phosphate)は35.7%(>5%)で、腎性のFGF-23介在性の低リン血症が疑われる

(urine phosphate level×serum creatinine level×100)÷(serum phosphate level×urine creatinine level)

 

 

#尿検査:蛋白質とブドウ糖は陰性、血清尿酸値は正常範囲

# FGF-23 235 RU/mL

 

 

・ FGF-23依存性の低リン血症の原因には、腫瘍性骨軟化症(腫瘍からFGF-23が分泌される)とXリンク型、常染色体優性、常染色体劣性の遺伝性低リン血症性くる病がある

・ 今回の症例は腫瘍性骨軟化症の可能性が高い

・この症候群の原因となる腫瘍は、典型的には間葉系の腫瘍であり、良性である。これらの腫瘍は体のどこにでも発生する可能性があるが、脚部および骨盤に好発する傾向があり、次いで頭部および頸部である

・見つからない場合は、FDG-PET、PET-CT、SPECT、68Ga-PET-CTを検討する

 

 

 

 

# 68Ga-Dotatate PET-CTでは右第一中足骨に局所的な取り込みの増加を示した

#その後の右足のMRIでは、第一中足趾節関節の内側面に隣接する皮下軟部組織に2.2cmの鉱化した腫瘤が認められ、Dotatateの取り込みが増加した領域に対応していた

 

・完全切除を確実に行うために、広いマージンで外科的切除を行うために紹介されるべき

・切除後の二次性副甲状腺機能亢進症を予防するために、積極的にカルシウムとビタミンDの補給を受けるべきである

 

 

 

 

最終診断:リン酸塩尿性間葉系腫瘍/PMT(phosphaturic mesenchymal tumor)

 

 

転機:術後3日目までにFGF-23レベルは59RU/mLまで正常化、Pはゆっくり改善し術後3日目には2.5mg/dL、術後45日目には5.3mg/dLに上昇した

毎週50,000IUのエルゴカルシフェロールを8週間投与し、毎日1,000mgのカルシウムを補給した

切除後8ヵ月までには足首の痛みは完全に消失し、歩行は自立した

 

 

teaching points

骨軟化症について

・骨痛、骨折、歩行困難が一般的な症状、近位筋筋力低下もある

・見落とされがちな電解質である血清リン酸値が骨軟化症の診断の鍵を握っていた

・リン酸塩の分画排泄量はランダムスポット尿サンプルから推定できるが、最も正確な評価は空腹時スポット尿サンプルと血清リン酸塩とクレアチニンを同時に測定し、糸球体濾過率で割ったリン酸塩の最大尿細管再吸収量(TmP/GFR)を計算できる

・24時間尿を採取することも可能ですが、結果は一日中の食事性リンのレベルを反映しているため、精度は低くなる

・1リットル当たり0.80mmol未満のTmP/GFRは、どの年齢でも腎でのリン排泄と一致している

・カルシトリオール低値はFGF23介在性の原因にたどり着くことができた

・ GF-23依存性低リン酸血症の後天的原因は、腫瘍誘発性骨軟化症であると考えられる

 

リン酸塩尿性間葉系腫瘍/PMT(phosphaturic mesenchymal tumor)について

・腫瘍性骨軟化症の原因腫瘍の大部分を占める間葉系腫瘍は、ソマトスタチン受容体、特にソマトスタチン受容体サブタイプ2(SSTR2)を発現している

・ 68Ga-Dotatatate PET-CTは、FDG-PETやSPECTより感度(55-100%)、特異度(86-100%)が高く、腫瘍誘発性骨軟化症の第一選択の画像検査とすべきである

・腫瘍が限局しており、手術が可能な場合には、完全な外科的切除が治癒のために推奨される

・腫瘍性骨軟化症の230例を対象とした後方的研究では、手術後も腫瘍の11%が残存し、さらに7%が再発している

・切除後の二次性副甲状腺機能亢進症に注意する

・手術後、FGF-23とPの正常化により治癒が確認される。インタクトFGF-23は半減期が短いため数時間以内に正常化するが、C末端FGF-23は数日から数週間で正常化する。Pは数日以内に正常化し、カルシトリオールおよび副甲状腺ホルモンレベルは通常、術後数日でsupraphysiologicなレベルまで上昇し、その後正常化する

・骨の再石灰化に伴ってカルシウム、リン酸塩、25-ヒドロキシビタミンD、副甲状腺ホルモンレベルを日常的にモニタリングすることが重要であり、必要に応じてカルシウムとビタミンDを補給することも重要である。

 

振り返り

・多発骨折患者にはPの値をチェックする

 

Next Step

・骨軟化症について

 

 

 

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