築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

頭痛、低酸素血症

27歳女性、頭痛、低酸素血症
27-Year-Old Woman With Fever, Headache, and Anemia. Mayo Clin Proc. 2020;95(6):1276‐1280. 
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(20)30155-5/pdf

 

 

病歴より

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#27歳女性、発熱、頭痛、貧血を主訴に来院。

#自己免疫性多内分泌腺症候群、副腎不全、自己免疫性甲状腺炎、再発する血流感染症、胃不全麻痺

#PICC挿入しTPNを使用している

#DVT、PE、低ガンマグロブリン血症

#鉄とビタミンB12欠乏症による慢性貧血で、複数回の赤血球輸血が必要になる

#常用薬: cholecalciferol, cyanocobalamin, enoxaparin, fludrocortisone, hydrocortisone, midodrine, pantoprazole, and dapsone

#長期のコルチコステロイド療法で免疫抑制され、 Pneumocystis jiroveciiの予防のためダプソンを服用している

# 2年以上にわたり、 Enterococcus faecalis、 Candida tropicalis による菌血症、MRSAによる皮膚軟部組織感染、インフルエンザ後肺炎球菌性肺炎、再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症で糞便移植を必要とした

# P jiroveciiの予防のためST合剤を使用していたが、CD腸炎のためダプソンに変更した

#2ヶ月前にEnterococcus faecalisのCLABSIに対しダプトマイシンで加療に成功した

#治療し3週間後まで元気だったが、発熱、悪寒、筋肉痛が出現し増悪したため、救急外来を受診した

 

身体所見

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# 意識清明、38.5度、 101/71mmHg、 120拍/分、 16回/分、SpO2 99%(RA)

#Cushing様体型、中心性肥満、丸顔

#右上肢PICCと周囲の皮膚は正常で、感染兆候なし

#項部硬直なし、神経学的異常所見なし

#他に身体所見で目立つ所見はない

 

検査所見

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#血液検査:Hb 7.7 g/dL、MCV 86.1、血小板 30.5万、網状球数、3.77%、白血球 11900(好中球 7910、リンパ球 640、単核球 330、好酸球 30、好塩基球 30)、Na 140、K 4.2、Cl 104、HCO3 27、BUN 17、Cre 0.61、

#血液培養、尿培養は結果待ち

#胸部X線:異常なし

 

この時点で発熱の原因はよくわからなかった

入院して頭痛が増悪し、腰椎穿刺を行った

腰椎穿刺から7時間後、院内急変チームが低酸素血症でコールを受けた

 

#呼吸数 22回/分、5Lの酸素需要でSpO2 88%

#118/68mmHg、91回/分

#呼吸困難はないが、胸部圧迫感を自覚した

#胸部の聴診では両側清明、心音も雑音や頻脈なし

#神経所見変化なし、皮膚は口腔周囲のチアノーゼを認めた

#血液ガス検査: pH 7.43、 PCO2 37 mm Hg、 PO2 167 mm Hg、HCO3 25 mmol/L、SaO2 81%、酸素飽和度ギャップ 7%

 

 

 

 

診断は?

 

 

 

・酸素飽和度ギャップとは、パルスオキシメトリによる酸素飽和度測定値と実際の酸素飽和度測定値の差を示す

・正常な酸素飽和度ギャップは5%以下

・一酸化炭素ヘモグロビン血症は酸素飽和度ギャップを開大させるが、今回のケースでは(入院しているため)原因になりにくい

・スルフヘモグロビン血症では酸素飽和ギャップが開大するが、酸素飽和度極線では右にシフトするため、酸素は末梢で酸素が放散される

・臨床的症状に乏しい点はあうが、可能性は低い

・メトヘモグロビン血症は酸素飽和度極線では左にシフトし、酸素飽和ギャップが開大する

・ヘムタンパクの鉄が2価から3価に変わり、酸素と結合することができなくなる

 

# carboxyhemoglobin<1.0% 、sulfhemoglobin 0.4% 、methemoglobin 18.1% (<1.5%)

 

 

最終診断:メトヘモグロビン血症

 

・鉄を3価から2価に還元するメチレンブルーが適切な治療である

・10分から60分以内にmethemoglobin を10%以下にできる

・一般的にはmethemoglobinが20%以上、症状が重篤な場合に使用される

・ダプソンやリドカインがmethemoglobin血症のリスクファクターと考えられた

・それぞれ半減期は30分(ダプソン)、2時間(リドカイン)である

・チョコレート色の血液がmethemoglobin血症に特徴的である

 

 

 

患者の転機:メチレンブルーは使用せず支持療法を行なった、その日の夜にはSpO2 91%に回復した

2日後、 methemoglobinは0.7%に改善した

5日後、各種培養は陰性だった

その後、発熱と頻脈があり、培養より腸内細菌や真菌が検出され、PICCを抜去、経管栄養や経口での抗菌薬に変更した

 

 

Teaching points

・チアノーゼや低酸素血症で酸素投与をしても改善しない場合、メトヘモグロビン血症を鑑別に考える

・メトヘモグロビン血症は3%以上が診断基準だが、10%を超えると症状が顕著になる

・35%以上になると、頭痛、疲労、倦怠感、呼吸困難

・60%以上では、不整脈、痙攣、血管虚脱、死亡が起こる

・ダプソンの使用がメトヘモグロビン血症を想定させたが、ダプソンと麻酔薬の使用、抗マラリア薬、メトクロプラミド、硝酸薬の併用がメトヘモグロビン血症をよく生じる原因になる

・メチレンブルーを溶解させて、1mg〜2mg/kgを経静脈的に5分以上かけて投与する

・1時間以内にチアノーゼや低酸素血症が改善しない場合、上記の容量で再投与する

・メチレンブルーはG6PD欠損や妊婦には禁忌である、その場合アスコルビン酸を使用する

 

 

 

振り返り

・複雑な症例だったが、血液ガスの結果より一発診断であった

・チョコレート色の血液でも想起したい

 

Next Step

・スルフヘモグロビン血症とは?

 

 

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