築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

今週の振り返り

今週の症例のまとめ

5/13 全身の掻痒感

5/14 背部痛、血尿、浮腫

5/15 嘔吐

5/16 3ヶ月前から続く食思不審

5/17 低Na血症と顔・手の不随意運動

5/18 発熱、咳嗽、呼吸困難

5/19 視力低下

5/20 無気力と発語低下

5/21 進行する感覚低下と痺れ

5/22 身体機能の低下

 

 

************勉強となる鑑別疾患のあげ方************

5/16 好酸球増多の鑑別

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5/17 低Na血症の鑑別 (詳しくはこちらより)

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5/18 突然発症・急速進行の両側肺すりガラス影+心機能低下の症例の鑑別リスト

(詳しい解説はこちら)

・電子タバコ関連肺障害

・市中肺炎

・レプトスピラ

・野兎病

・肺ペスト 

ハンタウイルス肺症候群

 

5/19 視力低下の鑑別

(詳しい解説はこちら)

・視力障害の鑑別は、眼の解剖学的問題か視神系の問題

・それらは、対光反射で鑑別

・中心の視野が欠けており、色が見えない症状があるため、視神経障害の鑑別に進む

視神経障害(Optic Neuropathy)の鑑別

・経過で鑑別

超急性期:虚血や外傷

慢性: 悪性腫瘍、中毒、ビタミン欠乏

亜急性期

・グルココルチコイドの反応性、各種抗体、MRI所見等で鑑別

(例)

感染症

ライム病、梅毒、結核、サイトメガロウイルスなど

孤立性視神経炎・視神経炎

多発性硬化症

視神経脊髄炎

抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)抗体陽性の視神経炎

傍腫瘍症候群

サルコイドーシス

レーベル遺伝性視神経症

SLEやシェーグレン症候群、ANCA

 

 

5/20 急性脳髄膜炎の鑑別リスト (詳しい解説はこちら)

非感染性

自己免疫性脳症と傍腫瘍性脳症

がん性髄膜炎

片頭痛や片頭痛様症候群

NSAIDsなどによる薬剤性脳炎 

感染性

原生動物

アメーバ性髄膜脳炎

Balamuthia mandrillaris

Toxoplasma gondii  

真菌

地域流行型真菌症endemic mycosis (histoplasmosis, blastomycosis, coccidioidomycosis) 

Cryptococcus neoforman

細菌

Streptococcus pneumoniae

Listeria monocytogenes

Anaplasma phagocytophilum 

Spirochete(Treponema pallidum, Borrelia burgdorferi, or B. miyamotoi)

Mycobacterium tuberculosis

ウイルス

蚊媒介ウイルス(West Nile virus, St. Louis encephalitis virus, La Crosse virus, and eastern equine encephalitis virus)

ダニ (Tickborne Powassan virus, Ixodes scapularis)

ヘルペス (Herpes simplex viruses,Varicellazoster virus )

EBV

CMV

HHV-6

インフルエンザウイルス

JCウイルス

非ポリオ性エンテロウイルス(例えば、エコーウイルスやコックスサッキーウイルス)

慢性エンテロバイラル髄膜脳炎(Chronic enteroviral meningoencephalitis )

アデノウイルス

 

 

 

 

 

 

*********疾患別のLearning points************

*ネタバレあり*

 

 

 

5/13 糞線虫 Strongyloides Stercolarisについて

・慢性感染を起こす(65年以上持続感染したケースも)
・移動性の蛇のような掻痒のある皮疹をきたす
・下痢、食思不審、消化不良などの消化器症状をきたす
・hyper infection sydnromeでは致死率が87%(消化管粘膜から細菌の血行感染を起こす)
・便検査で1回で見つかる確率は30%、7回検査をすると感度 100%
・血清学は感度 95%、特異度 30%
特異度が低い(filariasis, schistosomiasis, and Ascaris lumbricoidesとcross reactionするから)
寄生虫感染は特異的なIgEと相関する (治療した後も、残存するが・・・)
 

5/14 前立腺癌骨転移について

・下腿浮腫はリンパ節転移が原因

・PSA上昇:前立腺肥大、前立腺炎、会陰外傷、唾液腺腫瘍

・前立腺癌の骨転移に対する標準治療:放射線照射

前立腺癌の骨転移に対する他の治療の選択肢として

ビスホスホネート:データがほとんどない、1つのデータでは骨イベント発生率や生存率を改善する結果は証明されなかった

デノスマブ:骨イベント発生率や生存率に関するデータなし

テリパラチドは禁忌(転移を増やす可能性)

・骨転移のある前立腺癌の標準治療: abiraterone/ docetaxel +glucocorticoids with ADT

(STAMPEDE, CHAARTED, and LATITUDE trials)

・Abirateroneには下腿浮腫の副作用があり、今回の患者にはAndrogen deprivation therapy +docetaxel + prostate radiation therapyを選択した

(STAMPEDE trial)

・予後は適切な治療を行えば、15ヶ月(13-17ヶ月)

 

5/15  血球貪食症候群

・血球貪食症候群の最多の原因はEBウイルス

・血球貪食症候群の治療は原則遅らせない

・肝脾腫大は80%、フェリチン上昇は95%、フィブリノゲン低値は40%以下

・皮膚は6-65%、痙攣や脳症などの神経症状は1/3以上

・骨髄で血球貪食像がなくても、血球貪食症候群がないとは言えない

・血球貪食症候群は、小児でなくても成人にも起こり得る

 

5/16 肝姪症について

牛、羊、豚、その他ロバやラマなどの家畜化された草食動物が最終的な宿主であり、そこから卵が放出されて繊毛化した遊泳性のミラシディアを形成し、中間宿主であるカタツムリに感染する。

ヒトに摂取されると、メタセルカリアは腸内で嚢胞を脱嚢し、2~24時間以内に腹腔内に移動する。48時間後、幼虫は7週間かけて肝実質を移動し、壊死と好酸球浸潤を引き起こす。

急性感染時には、蕁麻疹、そう痒症、またはその両方が20~25%の症例にみられる

慢性期(胆道期)では、成虫が宿主の肝管および総胆管に卵を放出する。この潜伏期は何十年も続くことがあり、胆道閉塞、上行性胆管炎、急性膵炎、粘膜浸潤および血便などの特徴がある。

卵は胆道期にのみ存在し、これは感染性メタセルカリアを摂取してから2~4ヶ月後に発生する。便検査は感染の初期段階では参考にならない。慢性期では卵が散発的に放出されるため、正確な診断のためには、複数の便検体の検査が必要になる。

慢性期では、超音波検査で胆道内の自発的な寄生虫の移動や三日月状の内容物が確認できることがある。結節影や、門脈周囲リンパ節腫大を、CTやMRIで認める。

今回は便中に肝姪を認めず、CDCに依頼して血清学的に診断した。(感度 94%、特異度 98%と報告されている)

今回の症例では、著しい好酸球増多の原因と、患者が旅行中に淡水植物を摂取したことが関係しているとの認識から、F. hepatica感染症を検討した。

 

5/17 LGI1抗体 辺縁系脳炎について

 

・ LGI1抗体 辺縁系脳炎では顔面上腕ジストニー発作が記憶障害、錯乱、痙攣の前兆となる

・LGI1抗体 辺縁系脳炎の60%に低Na血症が合併する

LGI1抗体陽性の辺縁系脳炎のプレゼンテーションでは、

記憶障害、錯乱、痙攣を認める。これらの症状の前に、顔面上腕のジストニー発作を認め、ジストニアやミオクローヌスと間違われる。低Na血症やREM睡眠行動異常を認める。

MRIでは辺縁系脳炎に典型的な内側側頭葉の高信号などの所見を示す。CSFでは正常かオリゴクローナルバンドを示す。症例の5-10%が悪性腫瘍と関連し、最も一般的な関連腫瘍は胸腺腫である。他の腫瘍との関連は偶然かもしれない。

Up To Date"Paraneoplastic and autoimmune encephalitis"より

 

5/18 ハンタウイルス肺症候群について

ハンタウイルス肺症候群(Hantavirus cardiopulmonary syndrome) (Sin Nombre Virus) (NIIDによる解説はこちら)

・出血性腎症候群、心肺症候群の2つの臨床病型がある

・心肺症候群は1993年にニューメキシコとアリゾナの間で原因不明のARDSがoutbreakして報告された

・ネズミが自然宿主であり、糞便、尿、唾液、噛まれたりして感染する

・潜伏期間は2-4週間、前駆症状(発熱、筋肉痛、頭痛、腹痛、嘔気嘔吐)が3-5日続く

・桿状好中球増多を伴う白血球増多、血小板減少が生じる

・前駆症状後に非膿性の痰を伴う咳嗽、呼吸困難、心筋障害が生じる

 

5/19 レーベル遺伝性視神経症

レーベル遺伝性視神経症

・痛みを伴わない亜急性の片目の重度の視力低下があり、数週間、数ヶ月後に別の片目の視力低下をきたす

・ミトコンドリア病遺伝で、男性に比較的多い、一般的には15~15歳の間に発生する

・50%の患者は家族歴はなし

・視力が20/200よりも悪くなる

・炎症は関与しないので、グルココルチコイドの投与で改善しない

・MRIでは通常視神経の後部のみが高信号となるが、急性期では視神経に造影効果がでる

・各種抗体が陰性で、グルココルチコイドの投与で改善しない点が合致する

 

5/20 アデノウイルスによる急性脳髄膜炎

アデノウイルス

・免疫不全の患者において、一次感染あるいは全身感染や呼吸器感染の合併症として髄膜炎や髄膜脳炎を引き起こす可能性がある

・髄膜脳炎が重症肺炎の合併症として一般的に起こるため、髄膜脳炎自体は稀な疾患である

 

5/21 多発性硬化症について

・古典的には臨床的発作(症状)と臨床的客観的所見(画像)がMSに合致し、時間的・空間的に多発することで診断されていた

・そのため最初の症状から間隔があいて(時間的に多発)診断されることが多かった

・しかし早期治療により臨床転機が改善されたことから、より早く診断をつけることが推奨され、2017年にMcDnald診断基準が改定された

Lancet Neurol. 2018;17(2):162-173.

・(例えば)髄液でオリゴクローナルバンド が陽性、画像から多発する脱髄所見(空間)があれば、時間的に多発しなくても診断可能となった

・しかしそれでも症状が出て診断がつくまで2年かかったり、最初の症状が起きてから3回のイベントが起きて診断された例や、

神経内科の受診まで46ヶ月かかった例が報告されている

・若い女性では診断に遅れが出やすい

・診断エラーが起きやすい併存疾患は、偏頭痛、線維筋痛症、精神疾患、NMO関連疾患である

・ 2017年に診断基準でMSが臨床的に診断しやすくなったが、他の疾患とMSを区別できるわけではない点にも注意が必要(Up To Date)

 

5/22 コルヒチン中毒(筋毒性、消化器毒性)

・高齢者の痛風の治療はNSAIDs、ステロイド、コルヒチンとどれも使用しにくい

・CrCl>30はコルヒチンの容量調節不要ではあるが、CrCl<60では慎重投与になっている

・処方する場合は、半年ごとにCKをモニターする必要がある

・クラリスロマイシン、フルコナゾール、アミオダロン、スタチン、フィブラート、シメチジンなどがコルヒチンの濃度をあげる

・消化器症状もコルヒチン中毒と考えられた

Up To Dateによると、

コルヒチンの消化器症状の頻度は、26-77%(下痢 23-77%、嘔吐 17%、嘔気 4-17%)

神経症状(頭痛1-2%、倦怠感 1-4%)

痛風(4%)

咽喉頭痛(2-3%)

ケースレポートレベルでは、

脱毛症、無形成性貧血、無精子症、骨髄抑制、皮膚炎、播種性血管内凝固、摂食障害(Syed 2016)、顆粒球減少症、肝毒性、過敏反応、CK増加、血清ALT増加。血清AST増加、乳糖不耐症、白血球減少症、丘疹性発疹、筋肉痛、筋無力症、ミオパチー、筋緊張症、神経障害、乏精子症、汎血球減少、末梢神経炎、非血小板減少性紫斑病、横紋筋融解症、皮膚発疹、血小板減少症、中毒性神経筋疾患

が報告されている

 

 

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