築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

62歳男性、 転移性の非小細胞癌、筋力低下、食思不振、下痢

62歳男性、 転移性の非小細胞癌、筋力低下、食思不振、下痢
A Fiery Pivot. J Hosp Med. Published Online First June 17, 2020.
https://mdedge-files-live.s3.us-east-2.amazonaws.com/files/s3fs-public/issues/articles/pueringer04560617e.pdf

 

 

#62歳男性、転移性非小細胞肺がん、3日間の進行する筋力低下、食思不振、非血性下痢

#発熱、悪寒、嘔気、嘔吐、咳嗽、息切れ、腹痛はなし

#sick contactなし

 

 

 

#2日前に急性期病院で非重症のCD腸炎と診断され、メトロニダゾールを内服したが、翌日下痢が増悪し筋力低下、食思不振を伴った

#既往歴:未治療のHCV、CKD G3、てんかん、左肺の非小細胞肺がん(腺癌)

#8ヶ月前に血痰で診断、3ヶ月前に進行する全身症状

#画像検査では、対側の肺、局所リンパ節、椎体、肋骨と骨盤に転移を認めた

#腹部に転移は認めなかった

#カルボプラチンとパクリタキセルで治療された

#PRとなり、末梢性神経障害のため12週前にゲムシタビンに変更された

#最後の化学療法は、2週間前にゲムシタビンを投与された

#追加の化学療法や免疫療法は受けていなかった

#喫煙歴は40年で肺癌と診断され禁煙した

#飲酒なし、旅行歴やsick contactなし

#常用薬なし

#ホームレスだったが、家族のところに泊まっていた
#出血、打撲、喀血、下血、血便、血尿はない

 

 

身体所見・検査所見

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#倦怠感あり、 体温 36.8℃、血圧 158/72 mm Hg、脈拍88回/分、呼吸数 16回/分、酸素飽和度 96%(RA)

#強膜黄染や結膜充血なし、軽度の結膜蒼白あり

#腹部は腸蠕動音正常、圧痛なし、臓器腫大なし

#鎖骨上、腋窩、鼠径部にリンパ節腫脹なし

#脳神経系Ⅱ〜Ⅻまで異常なし

#四肢の筋肉量は減少していたが、局所ではない

#WBC 5500、Hb 5g/dL、血小板 2万(1ヶ月前は23万)

#Cre 3.9、BUN 39、Na 137、K 4.2、CL 105、HCO3 22、TSH 0.9、TP 4.9、Alb 2.1、ALP 60、ALT 17、AST 60、D-Bil 0.2、T-Bil 0.5

#胸部X線:浸潤影なし

 

 

#尿検査では、琥珀色の希薄な尿、白血球・赤血球・蛋白・円柱なし

#尿は血液が陽性だが、ビルルビンやヘモジデリンはなし

# LDH 1,382 IU/L 、ハプトグロビン低値、フェリチン 2,267 ng/mL、血清鉄 57 mcg/dL、TIBC 241 mcg/dL、トランスフェリン 162 mcg/dL、網状細胞数 6%、ビタミンB12正常

#INR、APTT正常

#直接抗グロブリン試験陰性

#フィブリノゲン 287mg/dL、 D-ダイマー 5,095 ng/mL

 

 

#血液製剤の使用はなかった、前回入院時ヘパリンを使用していた

#マダニ暴露の既往はない

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

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#末梢血液像では破砕赤血球、球状赤血球はない、熱変形赤血球を示した

 

 

 

 

最終診断:ゲムシタビンによるTMA+CD腸炎による感染、による後天性熱変形赤血球症

 

#患者は赤血球輸血を受け、大量補液を施行された

#CD腸炎は経口バンコマイシン+IVでのメトロニダゾールで治療された

#3日後、血小板数、Hb、Cre、倦怠感は改善した

 

 

 

leaning points

・がん関連の可能性と非関連の可能性と分けて考える

・溶血は急性に起こったものと考えられる、慢性であれば尿中にヘモジデリンが検出される

・TMAの患者は、ADAMTS13の結果が分かるまで、血漿交換をやるべき

・MAHAが否定された場合、PNHなどを考える

・他に全身性疾患では、重症な火傷、行軍ヘモグロビン尿症、心臓の機械弁、免疫性の溶血、寒冷凝集素症、不適合輸血、感染症(malaria, Bartonellosis, Babesiosis, Leishmaniasis, Clostridium perfringens, Haemophilus influenzae B.)

・破砕赤血球がないという情報はTTPやHHSを除外しないが、可能性は下がる

 

・血液塗抹では、意外な所見として熱変形赤血球が見られた

・熱傷やまれな膜の構造的欠陥でみられる

・遺伝性熱変形赤血球症は非常に稀

・遺伝性熱変形赤血球症は脾腫大、網状赤血球症、黄疸を認める

 

・後天性熱変形赤血球症は、重症熱傷や薬物誘発性TMAおよび重症細菌血流感染症(主にGNR)で見られる

・ゲムシタビンによりTMAが生じる可能性がある(TTPより腎障害生じやすい、ADAMTS13がそこまで低下しないこともある)

 

 

 

振り返り

・末梢血液像で破砕赤血球が出るかと期待していた

・ゲムシタビンによるTMAを想起しなければならない

・CD腸炎の腸管外症状として、稀だが上記のような血管内溶血が生じる可能性が起こることがわかった

 

 

Next Step

・熱変形赤血球はどうやって末梢血で見るのか?