築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

数ヶ月続く両側の足首の疼痛

63歳女性、数ヶ月続く両側の足首の疼痛
The Game Is Afoot. N Engl J Med 2020; 382:2249-2255
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1913599

 

 

病歴より

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#数ヶ月続く両側の足首の疼痛

#2年前に左脛骨高原骨折をしている

#DXAスキャンのTスコアは、大腿骨頚部で-1.9、股関節全体で0.0、脊椎で0.4

#左膝の骨折に関連した疼痛は最初は理学療法で軽減したが,その後,その膝に痛みが悪化し,新たに左大腿骨内側顆の骨折が認められた、保存的治療で痛みは再び軽減した。

#両足首に疼痛が進行し、間欠的に松葉杖と杖を使っていた

#発熱、体重減少、他の場所での痛みはない

 

・外傷歴がない場合、左大腿骨内側顆の骨折の原因に骨格不全または病的骨折が挙げられる

・病的骨折と不全骨折の鑑別診断には、多発性骨髄腫や固形腫瘍の転移などの腫瘍性のほか、骨軟化症、骨粗鬆症、骨Paget病、副甲状腺機能亢進症による線維性嚢胞性骨炎などの代謝性も含まれる

・最初のDXAの結果は骨減少症と一致していたが、骨量は臨床症状を説明するのに十分な異常ではない

 

追加問診

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#既往歴:乳癌( 10年前に乳腺摘出術とタモキシフェンの5年コースで治療された、治療終了後、年1回のマンモグラムと乳房の臨床検査に異常はない)、子宮筋腫(16年前に子宮全摘出術と両側卵巣摘出術)と閉塞性睡眠時無呼吸症

#喫煙歴、アルコール歴、違法薬物なし
#内服歴:カルシウムとビタミンDサプリメント(500mgのカルシウムと400IUのコレクカルシフェロール、毎日服用)とマルチビタミン剤

#家族歴は、父親が大腸がん、母親が乳がん、両親は80歳頃で股関節骨折

#結婚しており、2人の子供がおり、接客業に従事していたが足首の痛みのため仕事ができていなかった

#X線では左大腿骨内側顆、 左近位脛骨骨幹端の骨折に横方向に配向した線状の硬化性密度があり、不全骨折の一致した所見であった

 

・子宮卵巣全摘術歴は骨粗鬆症の危険因子であるが、タモキシフェンの閉経後の使用は骨粗鬆症保護効果がある

・家族歴は、骨脆弱性の家族素因の可能性がある

 

身体所見より

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#両足首に圧痛と可動域の低下があったが、腫脹や紅斑はなかった

#膝には、変形、紅斑、温感、圧痛、可動域の低下は認められなかった
#MMTは上肢と下肢で5/5

・骨軟化症に見られる低カルシウム血症では、 Chvostek徴候(顔面神経を打撲した後の同側顔面筋の収縮)およびTrousseau徴候(収縮期血圧以上の血圧計を膨らませた後の手足の痙攣)が見られるかもしれない

・除外すべき検査異常は、低カルシウム血症、低リン酸血症、ビタミンD欠乏症、腎・肝機能障害、栄養疾患や癌を示唆する血液学的異常である

 

 

検査所見より

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#足首のX線写真には骨折は認められなかった。

#血清カルシウム値は8.6mg/dL、アルカリホスファターゼ値は185U/L

#白血球数は10,210、Hb 14.9、血小板数 258,000

#電解質、腎臓、肝機能検査の結果は正常範囲内

#25-ヒドロキシビタミンD値 31ng/mL (20-80)

 

・アルカリホスファターゼ値の上昇は、おそらく骨のターンオーバーの増加の結果であり、肝臓に起因するものではない、Paget病、骨軟化症、副甲状腺機能亢進症などが考えられる

・X線写真の結果はPaget病の典型的な特徴を示していない

・リンの値は評価されておらず、不全骨折患者の評価において重要である

 

追加検査より

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#放射性物質を用いた骨スキャンでは、左右の脛骨遠位部、左腓骨遠位部、右踵骨を含む足首に新たな不全骨折がいくつか認められた

#肋骨、椎骨、脛骨近位部、大腿骨遠位部にも不全骨折が認められた

 

 

 

診断は?

 

 

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

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#P 1.4 (2.4-4.3)、カルシトリオール 14pg/mL (18-78)、PTH 57pg/mL (15-65)

 

 

 

・骨軟化症が鑑別に最も考えられる

・十分な25-ヒドロキシビタミンD、Caもあまり低値ではない点から、栄養が原因の骨軟化症は考えにくい

・後天性または遺伝性の低リン血症を疑う

 

 

・リンは、副甲状腺ホルモン、FGF-23、カルシトリオールという3つのホルモンによって調節されている

・FGF-23は2つの方法で血清リン酸塩濃度を低下させる

・ナトリウム-リン トランスポーターの調節を低下させ腎臓近位尿細管でのリンの再吸収を阻害する

・カルシトリオールの合成を低下させ(腎臓の1-α-水酸化酵素の阻害による)、異化を促進させることにより(24-水酸化酵素の刺激による)、リンを低下させる

・腎性の低リン血症の原因は、FGF-23に依存性または非依存性の機序がある

・今回のケースではカルシトリオールが低い原因は、FGF23を介する腎性の機序である

・ FGF-23に非依存性であればカルシトリオールは上昇するはず (ナトリウム-リン トランスポーター変異による遺伝的機序で起こる)

・非腎性の低リン血症の原因は細胞内シフト、intake不足、吸収不良が挙げられる

・下痢の既往やP吸着薬の使用、家族歴を問診するべき

 

 

#下痢やP吸着薬の使用、低リン血症の家族歴はなかった
#P 1.4mg/dL、Cre 0.55mg/dL、尿P 48.7mg/dL、尿Cre 53.6mg/dL

 

 

・FE P(fractional excretion of phosphate)は35.7%(>5%)で、腎性のFGF-23介在性の低リン血症が疑われる

(urine phosphate level×serum creatinine level×100)÷(serum phosphate level×urine creatinine level)

 

 

#尿検査:蛋白質とブドウ糖は陰性、血清尿酸値は正常範囲

# FGF-23 235 RU/mL

 

 

・ FGF-23依存性の低リン血症の原因には、腫瘍性骨軟化症(腫瘍からFGF-23が分泌される)とXリンク型、常染色体優性、常染色体劣性の遺伝性低リン血症性くる病がある

・ 今回の症例は腫瘍性骨軟化症の可能性が高い

・この症候群の原因となる腫瘍は、典型的には間葉系の腫瘍であり、良性である。これらの腫瘍は体のどこにでも発生する可能性があるが、脚部および骨盤に好発する傾向があり、次いで頭部および頸部である

・見つからない場合は、FDG-PET、PET-CT、SPECT、68Ga-PET-CTを検討する

 

 

 

 

# 68Ga-Dotatate PET-CTでは右第一中足骨に局所的な取り込みの増加を示した

#その後の右足のMRIでは、第一中足趾節関節の内側面に隣接する皮下軟部組織に2.2cmの鉱化した腫瘤が認められ、Dotatateの取り込みが増加した領域に対応していた

 

・完全切除を確実に行うために、広いマージンで外科的切除を行うために紹介されるべき

・切除後の二次性副甲状腺機能亢進症を予防するために、積極的にカルシウムとビタミンDの補給を受けるべきである

 

 

 

 

最終診断:リン酸塩尿性間葉系腫瘍/PMT(phosphaturic mesenchymal tumor)

 

 

転機:術後3日目までにFGF-23レベルは59RU/mLまで正常化、Pはゆっくり改善し術後3日目には2.5mg/dL、術後45日目には5.3mg/dLに上昇した

毎週50,000IUのエルゴカルシフェロールを8週間投与し、毎日1,000mgのカルシウムを補給した

切除後8ヵ月までには足首の痛みは完全に消失し、歩行は自立した

 

 

teaching points

骨軟化症について

・骨痛、骨折、歩行困難が一般的な症状、近位筋筋力低下もある

・見落とされがちな電解質である血清リン酸値が骨軟化症の診断の鍵を握っていた

・リン酸塩の分画排泄量はランダムスポット尿サンプルから推定できるが、最も正確な評価は空腹時スポット尿サンプルと血清リン酸塩とクレアチニンを同時に測定し、糸球体濾過率で割ったリン酸塩の最大尿細管再吸収量(TmP/GFR)を計算できる

・24時間尿を採取することも可能ですが、結果は一日中の食事性リンのレベルを反映しているため、精度は低くなる

・1リットル当たり0.80mmol未満のTmP/GFRは、どの年齢でも腎でのリン排泄と一致している

・カルシトリオール低値はFGF23介在性の原因にたどり着くことができた

・ GF-23依存性低リン酸血症の後天的原因は、腫瘍誘発性骨軟化症であると考えられる

 

リン酸塩尿性間葉系腫瘍/PMT(phosphaturic mesenchymal tumor)について

・腫瘍性骨軟化症の原因腫瘍の大部分を占める間葉系腫瘍は、ソマトスタチン受容体、特にソマトスタチン受容体サブタイプ2(SSTR2)を発現している

・ 68Ga-Dotatatate PET-CTは、FDG-PETやSPECTより感度(55-100%)、特異度(86-100%)が高く、腫瘍誘発性骨軟化症の第一選択の画像検査とすべきである

・腫瘍が限局しており、手術が可能な場合には、完全な外科的切除が治癒のために推奨される

・腫瘍性骨軟化症の230例を対象とした後方的研究では、手術後も腫瘍の11%が残存し、さらに7%が再発している

・切除後の二次性副甲状腺機能亢進症に注意する

・手術後、FGF-23とPの正常化により治癒が確認される。インタクトFGF-23は半減期が短いため数時間以内に正常化するが、C末端FGF-23は数日から数週間で正常化する。Pは数日以内に正常化し、カルシトリオールおよび副甲状腺ホルモンレベルは通常、術後数日でsupraphysiologicなレベルまで上昇し、その後正常化する

・骨の再石灰化に伴ってカルシウム、リン酸塩、25-ヒドロキシビタミンD、副甲状腺ホルモンレベルを日常的にモニタリングすることが重要であり、必要に応じてカルシウムとビタミンDを補給することも重要である。

 

振り返り

・多発骨折患者にはPの値をチェックする

 

Next Step

・骨軟化症について

 

 

 

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