築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

腎移植後の労作時の呼吸困難、発熱

56性、日本人、腎移植後患者の労作時の呼吸困難、発熱
Past is PrologueJ. Hosp. Med 2019;8;501-505.
https://mdedge-files-live.s3.us-east-2.amazonaws.com/files/s3fs-public/issues/articles/jhm014080501.pdf 

 

 

病歴より

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#20年前に腎移植後
#1日前の39度の発熱、悪寒

#2ヶ月前までは生来健康であったが、緩徐に労作時の呼吸困難を自覚した

#100m歩くと息切れがする

#胸痛、咳、浮腫、発作性夜間呼吸困難なし

 

・労作時の呼吸困難は、心臓、肺、血液、神経筋疾患が疑われる

・腎移植後患者では、アスペルギルス、CMV、ニューモシスチスも考えられる

・血管炎や移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)による腎障害、からの心不全も考えられる

・sub-acuteな労作時の呼吸困難とacuteな発熱が同じ疾患なのか、別の疾患なのか

 

追加の情報

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#既往歴:膜増殖性糸球体腎疾患腎症(MPGN)により末期腎不全、20年前にrelated-donorから腎移植、 2型糖尿病,高血圧症、顔面基底細胞癌(3年前)

#常用薬:プレドニゾロン15mg/日、アザチオプリン 100mg/日、シクロスポリン100mg/日、およびアムロジピンとカンデサルタンを服用

#妻と子供と暮らしている
#動物や環境への暴露はない
#喫煙なし、飲酒なし、渡航歴なし
#父親は糖尿病

 

・免疫抑制剤の使用は、リンパ腫や皮膚癌などの悪性腫瘍のリスクが高まる

・今回のケースではPCP予防が入っていなかった

・PCPの予防が必要なくなった移植から何年か経った症例がPCPを発症することが多い

 

身体所見

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#意識清明、 38.5℃、血圧120/60mmHg、心拍数146回/分、呼吸数18回/分、酸素飽和度 93%

#顔面蒼白や黄疸なし、頸部リンパ節腫脹なし

#心音は頻脈と規則的なリズム、正常なS1とS2、そして雑音、摩擦音、ギャロップ 頸静脈怒張、下腿浮腫なし

#肺は聴診で明瞭

#腹部は軟らかく、圧痛がなく、拡張もない

#移植された腎臓に巧打痛なし、肝脾腫はなし

 

・免疫抑制患者の肺炎はウイルス(呼吸器ウイルス、CMV)、細菌(一般細菌、 Nocardia, Rhodococcus)、抗酸菌、真菌(Aspergillus, Candida, Cryptococcus,Pneumocystis, and endemic mycoses)

・ PTLDがリンパ節外病変を起こすことはある、移植後1年で最も生じるがいつでも生じる

 

検査所見

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#WBC 3,500, Hb 9.0, MCV 102, Plt 137,000, Na 130, K 4.6, BUN 41, Cre 3.5,

#血算や電解質は変わりなし
#LDH 1895, フェリチン 2,114

#胸部X線では肺底部に空気の入った不透明像を認めた

 

細菌性肺炎に対してセフトリアキソンで加療した

 

・慢性的な汎血球減少症は、アザチオプリンやシクロスポリンの影響、多系統疾患による骨髄抑制や浸潤、または栄養不良などが挙げられる

・血球貪食症候群も鑑別である(2020/5/15を参照)

・LDHは細胞の破壊を示しており、肺感染症(PCP)や悪性腫瘍(PTLD)の可能性があるかもしれない

 

 

 

アザチオプリンとシクロスポリンを中止した。抗菌薬を投与したにもかかわらず、発熱したままであった。

低酸素症が悪化して酸素飽和度が5L/minの酸素投与で90%~93%だった

入院2日目

#CTで両側肺底部にすりガラス陰影を認めた

#血液、喀痰、尿の培養は陰性

 

CMV感染症に対しガンシクロビル、非定型肺炎にシプロフロキサシン、 Pneumocystisに対しST合剤を開始した

 

 

・多巣性のすりガラス陰影の鑑別は、感染性肺炎、慢性間質性肺疾患、急性肺胞障害(例:心原性肺水腫、ARDS、びまん性肺胞出血)、他の原因(例えば、薬物毒性、気管支肺胞癌、特発性器質化肺炎)

・感染ではPCP(発熱、低酸素血症、LDH上昇、両側性の肺浸潤、胸部のリンパ節腫脹がないこと、胸水がないこと)、CMV(発熱、低酸素血症、両側すりガラス陰影、汎血球減少症)、呼吸器系ウイルス、真菌性肺炎

・PTLD((発熱、LDH上昇、肺浸潤影)も鑑別

・しかし、肺性PTLDは肺移植患者に多く、腎移植患者には消化管、中枢神経系、またはリンパ節のPTLDが多い

・画像も今回の症例では非典型的である(通常、肺底部に網状影、結節影、多発腫瘤、リンパ節腫脹を特徴とする)

 

 

抗生物質と抗ウイルス剤による経験的治療にもかかわらず、発熱は持続し呼吸数は1分間に30回まで増加、FiO2 40%必要となった

入院5日目、

#胸腹部造影CT検査は両側の上部に新しい浸潤影を認めた

#膵臓に腫瘍はないが、低吸収の部分を示した

#BALではPneumocystis jiroveciiがPCRで陽性

#CMV直接免疫ペルオキシダーゼ染色が陽性(7.35×10の4乗 個あたり5個の細胞で陽性)

#EBV:VCA-IgG陽性、VCA-IgM 陰性、EBNA-IgG陰性

#可溶性インターロイキン-2  5,254 U/mL

 

プレドニゾロンの投与量を30mg/回に増量し、解熱しFiO2 35%に下がった

 

・労作性呼吸困難の2ヶ月後、患者は急性に持続熱と進行性の熱を発症した、二相性の臨床経過を考慮する

・PCPはこの患者の疾患の2nd phaseを説明するだけかもしれません

・CMV肺炎の診断はBALでPCRを提出することが必要である

・CMV感染は、血小板減少、HLH、膵浸潤と関連し、真菌感染やEBV-PTLDのリスクをあげる

・EBVはPTLDの原因になる可能性がある

・EBVやPTLDがPCP感染になった説明になる

・最終的にCMV、EBV、PTLDはHLHのトリガーになった可能性がある

・HLHの治療で使用されるシクロスポリンを使用していたため、HLHがmuteされていた可能性がある

 

 

入院11日目、

大量吐血によるショックで集中治療室に移された

#Hb 5.9のため、18単位の輸血を行った
#LDH 4139, フェリチン 7,855 ,

#EBVの血清PCRは1×10の6乗コピー/mL(正常値 2×10の2乗コピー/mL未満)

 

EBV関連HLHを考慮してメチルプレドニゾロン(1日1g、3日間)を開始し、デキサメタゾンとシクロスポリンに移行した
セフタジジム、バンコマイシン、ST合剤、シプロフロキサシン、アンホテリシン-B、ガンシクロビルを投与した

 

入院22日目、

昇圧剤や輸血にもかかわらず、ショック状態が続き死亡した

 

・臨床検査ではEBVウイルス感染症と血清LDHの上昇を認めた

・ EBV感染は消化管でPTLDを誘発した可能性がある

・ステロイド投与やストレスで消化管粘膜や消化管PTLD病変から出血したのかもしれない

・全体的に患者の状態はEBV感染とそれによってHLHと消化管PTLDを合併した可能性が高い

 

剖検では、EBV RNA陽性、CD20陽性の異形リンパ球が多臓器(骨髄、肺、心臓、胃、副腎、十二指腸、回腸、腸間膜)で認められた

 

最終診断:EBV陽性の移植後リンパ増殖性疾患(EBV-PTLD)

 

teaching points

・EBV、CMV、RSウイルスなどは直接感染を起こす一方で、移植患者には間接的な影響(アスペルギルス、ニューモシスチス感染、拒絶反応、腫瘍(PTLDなど)を及ぼすことがある

PTLDについて

・固形臓器移植患者や免疫抑制患者で重篤な合併症となる

・多くのケースがEBVにより引き起こされ、T細胞減少と関連がある

・腎移植患者では0.8-2.5%(肝移植では1-5%、肺移植では3-10%)の頻度

・死亡率は40-70%と高い

・PTLDのリスクは、T細胞の強い免疫抑制、移植前の悪性腫瘍歴、EBV(-)のレシピエント、EBV(+)のドナー

・移植患者が、全身症状、リンパ節腫脹、血球減少、LDH上昇、EBV DNA検出がある時に疑う

・肺、消化管、骨髄などの節外病変がPTLDでは他のリンパ腫より一般的

・生検での診断がゴールドスタンダード

・治療は免疫抑制剤の減量が1st だが、リツキシマブなどが2nd 選択として臨床研究をされている

 

 

 

振り返り

・EBV:VCA-IgG陽性、VCA-IgM 陰性の情報では既感染パターンか再活性化かいつも解釈が悩ましい(抗体強陽性では再活性化が疑わしいが)

・移植後患者の全身症状をきたす疾患の1つに移植後リンパ増殖性疾患を想起することが重要

 

Next Step

・CAEBVも含め、本当にEBVを疑う際はEBV-DNAを測るしかないか?

EBVについて

EBV活性化について

 

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