築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

22歳男性、カナダ人、全身性の浮腫、腹水

22歳男性、東アジア系のカナダ人、腹痛、全身性の浮腫、腹水
Last Resort. J. Hosp. Med. 2019 September;14(9):568-572. 
https://mdedge-files-live.s3.us-east-2.amazonaws.com/files/s3fs-public/issues/articles/jhm014090568.pdf

 

 

#22歳男性、2-3週間続く腹痛、早期の満腹感を伴う腹部膨満を主訴に来院

#9kgの体重減少、両下肢の浮腫、腹部の膨満、1日に1-2回の非血性の軟便がある

 

・初期の満腹感や膨満感は、非特異的な症状として

は、胃食道逆流症、消化性潰瘍疾患、胃腸閉塞、または胃穿孔症などの可能性

・身体の5%以上の体重減少は、深刻な基礎疾患があることが多い

・浮腫は、心不全、静脈・リンパ管閉塞による静水圧の増加や、肝疾患、ネフローゼ症候群、栄養失調、または蛋白漏出性胃腸症などの膠質浸透圧上昇が考えられる

 

病歴より

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#3週間にわたって強くなる全体の腹痛、両下肢、陰嚢、腹壁、および仙骨の浮腫、労作の息切れがある

#早期の満腹感は嚥下障害、嘔気、嘔吐はなかった

#発熱、悪寒、寝汗、吐き気、嘔吐、黄疸、易打撲、起立性頭痛、発作性呼吸困難、夜間呼吸困難、または胸痛などはなかった

#既往:喘息

#常用薬: fluticasone/salmeterol、 albuterol

#東アジア系のカナダ人で配管工として働いていた

# 6年間、1日3~4本のタバコを吸っていた、1ヶ月前から禁煙していた

#週に1回で飲酒、マリファナを使用していた

#同じような症状や悪性腫瘍の家族歴はない

 

・悪性腫瘍、感染症、膠原病または炎症性疾患、吸収不良、および進行した心臓、腎臓、または肝臓の疾患が鑑別

 

身体所見より

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#38.1℃、 123/86mm Hg、 138回/分、呼吸回数 20回/分、酸素飽和度  97%

#発汗があった

#黄染や黄疸はなかった

#頚椎、腋窩、鼠蹊では触知可能なリンパ節は触れなかった

#心音は頻脈を認めたが、雑音、擦過音、ギャロップ、頸静脈怒張はなかった

#腹部膨満、深部触診でのびまん性圧痛、腹水を認めた

#陰嚢にまで及ぶ両側下肢の圧痕を残す浮腫を認めた

#神経・肺に目立った異常はなかった

 

・肝硬変、低アルブミン血症、または閉塞(リンパまたは静脈)の可能性が高い

 

どのような検査が望まれるか?

・超音波検査

・凝固検査(肝臓の合成機能を評価するため)

・腹水検査(門脈圧亢進症、低アルブミン血症、腹膜疾患かどうか)

・腹水培養(細菌性腹膜炎の可能性)

・腹部や骨盤のCT(悪性腫瘍の評価)

・悪性腫瘍(胃がんやリンパ腫)、膠原病(SLE)、アミロイドの評価

・便(α-1抗トリプシン)

 

検査所見より

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#Hb 7.8、Plt 5.3万、WBC 10600、ALP 217、Alb 2.7、フェリチン 1310

#アミノトランスフェラーゼ値、ビリルビン、凝固パネル、電解質、クレアチニンは正常

#尿検査では血液、白血球、たんぱく質は陰性だった
#腹水 血清アサイト-アルブミン勾配(SAAG)2、WBC 250

#腹水の細胞診や培養は陰性
#血液培養、HIV-1、2、CMV、EBVの血清学的検査は陰性

# A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎は陰性

#抗核抗体(ANA)、抗dsDNA、ANCA陰性、

#ACE、免疫グロブリンレベル正常
# 胸部、腹部、骨盤の造影CTでは大量の腹水、皮下浮腫、中等度の肝脾腫、少量の胸水、縦隔、腋窩、腸間膜、胸膜周囲、膵臓周囲、および後腹膜リンパ節腫脹を認めた

 

・リンパ腫が最も可能性が高い

・ SAAGが1.1を超える場合は、門脈圧亢進症の存在を示す

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・腹膜播種の癌の細胞診の感度は80%以下

・骨髄穿刺が必要

 

リンパ節腫脹、貧血、血小板減少の評価のため骨髄生検と切除リンパ節生検を施行した

 

#骨髄には3系統の過形成、赤血球生成の減少、骨髄の細網線維化

#腋窩リンパ節のフローサイトメトリーではリンパ増殖性疾患や悪性腫瘍の診断はない

・過形成や骨髄の細網線維化は非特異的

 

#胃生検では軽度の胃症を認めた。

#十二指腸生検、空腸生検、左右結腸生検はいずれも正常であった

・リンパ腫は複数の生検で陰性にもかかわらず鑑別対象となるが、リンパ腫に似ている多系統疾患を考慮すべき

 

リンパ腫を考慮して、プレドニン50mg/日の10日間開始した

末梢浮腫と腹水の減少、発熱が治まり7日目に退院した

退院後5日後に全身浮腫の悪化,大量の腹水,急性腎障害を訴えて再入院した

 

#クレアチニン1.66、ヘモグロビン11.5、血小板 9.4万、フェリチン 1,907、ESR 50、CRP 12.1

#溶性IL-2受容体(CD25)、可溶性CD163、NK細胞障害性アッセイは陰性

#鼠径リンパ節はHHV-8は陰性

 

 

診断は?

 

 

最終診断

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診断:特発性の多中心性キャッスルマン病(CD) 、TAFRO症候群

・血小板減少症、全身性の浮腫、発熱、骨髄の細網線維化および/または腎不全、ならびに臓器肥大を特徴とする症候群である

 

転機

プレドニゾン、リツキシマブ(抗CD20抗体)、フロセミドを投与した

1ヶ月間の治療で、血球減少、リンパ節腫脹、臓器肥大、全身性浮腫、腹水の完全な消失を認めた。治療は約3ヶ月間継続し、現在は無症状を維持している

 

・キャッスルマン病(CD)は、単心性(孤立性拡大リンパ節)と多中心性(多焦点性肥大リンパ節)に分けられる珍しいリンパ増殖疾患

・ MCDは全身性の炎症、反応性増殖を呈する良性リンパ球、多巣性リンパ節腫脹、炎症マーカーの上昇、貧血、低アルブミン血症、多クローン性ガンマグロブリン血症が典型的なプレゼンテーションである

・特発性MCDはHHV-8陰性のMCDをさす

・ TAFRO症候群はThrombocytopenia(血小板減少)、Anasarca(体液貯留)、Fever(発熱)、Reticulofibrosis(骨髄線維化)、Organomegaly(臓器腫大)を呈する Catleman病の亜型

・ TAFRO症候群は、高熱、浮腫、肝脾腫、リンパ節腫脹、重度の血小板減少を示す3名の日本人患者を対象に、2010年に特発性MCDとして初めて報告された

 

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①体液貯留、②血小板減少、③原因不明の発熱、炎症反応上昇の全てを満たし、

リンパ節生検でCatleman病の初見、骨髄線維化、臓器腫大、進行性の腎障害のうち

2項目を満たす場合TAFRO症候群と診断する

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Int J Hematol. 2016 103(6):686-92.

 

 

 

振り返り

・キーワードを覚えていれば、診断にすぐにたどり着けたかもしれない

・診断が困難なときは多くの科(今回は血液内科、病理)の協力を要する

 

 

 

Next Step

・キャッスルマン病について

 

 

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