築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

繰り返す副鼻腔肺感染症

34歳男性、HIVの既往がある、繰り返す副鼻腔肺感染症
Recurrent Sinopulmonary Infections in a Patient Whose HIV Masked ・・・.

 J Gen Intern Med. 2020;35(1):341‐344.
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-019-05435-3

 

 

病歴より

************************

#34歳男性、HIVの既往があり、3日前から繰り返す呼吸困難、喘鳴、喀痰の伴わない咳嗽を主訴に来院した

#3週間前にBiPAPが必要な呼吸器疾患で入院しており、ウイルス感染症と喘息発作の診断であった

#HIV感染は良好にコントロールされ、CD4+数は537 cells/mm3、HIV RNAは未検出、日和見感染の既往はない

#その他の病歴は、喘息、慢性副鼻腔炎、うつ病、1年以内には合計6回繰り返す肺炎、喘息発作で入院歴がある

#これらの入院中に病原性を認めた微生物は、メタニューモウイルス、ライノウイルスのみ

#細菌や真菌の検出はないが、市中肺炎や院内肺炎で使用する抗菌薬を複数回使用した

#元喫煙者で、覚醒剤の静脈注射や吸入コカインの使用歴がある

#喘息、アルコール依存症、冠動脈疾患の家族歴がある

#常用薬:abacavir-lamivudine,raltegravir, albuterol inhaler, fluticasone-salmeterol inhaler, montelukast, buprenorphine-naloxone, clonazepam, citalopram, mirtazapine, and olanzapine

#アレルギー:ST合剤

 

 

 

 

身体所見・検査所見より

************************

#血圧 130/70mmHg、心拍数 140回、呼吸数28回/分、SpO2 97%(酸素 4L)

#発汗、努力呼吸、頻脈、びまん性の喘鳴を認めた

#血算、電解質、腎、糖は問題なし

#LDH 214、

#静脈血液ガス: pH 7.33, PaCO2 47 mmHg, PaO2 52 mmHg

#胸部X線、胸部CT: tree-in-bud appearanceを呈する両側の結節浸潤影、両側胸膜の肥厚を示した

 

 

ICUに入室し、 vancomycin, piperacillin-tazobactam, azithromycin, pentamidine and methylprednisoloneで加療開始した

 

 

#気管支肺胞洗浄を行い、細菌や呼吸器系ウイルスは陰性、ニューモシスチスやレジオネラも陰性

#ノカルジア、ヘルペス、サイトメガロウイルス、抗酸菌も陰性

 

 

 

 

診断に迫る検査は?

*****************************

#血清免疫グロブリンを測定:血清IgA<5mg/dL(正常値70~400mg/dL)、IgM75mg/dL(正常値40~230mg/dL)IgG 432mg/dL(正常値700~1600 mg/dL)

 

 

 

最終診断:分類不能型免疫不全症(CVID)と診断

 

治療:3-4週間ごとにIVIg(0.4-0.6g/kg)を投与することになった

 

 

転機:4週間後に一度細菌性肺炎で入院したが、その後3年間は一度も再発を繰り返さなかった

 

 

 

Teaching points

・HIV感染者は細菌性肺炎に罹患しやすいが、CD4+ <500のときに顕著になりやすい

・細菌性肺炎の1年の罹患率は、CD4+ <200のとき11%だが、 CD4+ >500では2.3%である

・HIVと液性免疫の関係は複雑だが、HIV患者では高ガンマグロブリン血症が一般的にみられる

・107人の患者のレビューでは、1/3が血清IgA、2/3が血清IgGが上昇し、HIVの進行と関連していた

・別の研究では、高ガンマグロブリン血症が非HIV患者では10%であったのに対し、 HIV患者では53%であった

・免疫グロブリンの上昇の機序は多因子であり、 HIVや他の病原体(EBVなど)に対する免疫応答、ナイーブB細胞の過剰活性化、抗体産生の調節の喪失に関連している可能性がある

・パラプロテインgap(総蛋白質-アルブミン)が高値の時、感染、悪性腫瘍、血液疾患、自己免疫疾患を疑う

・通常、成人の正常患者で低パラプロテインgap(<1.9g/dL)は、液性免疫不全を疑う指標になる

・選択性IgA欠損では、CVIDに進展する可能性があるため、定期的にIgMやIgGをモニターするべきである

・今回の症例では、急激に呼吸器感染を繰り返しやすくなった経過のため、選択性IgA欠損からCVIDへ進展したことが考えられる

・稀だがHIV患者とCVID合併の報告例が複数ある

 

振り返り

・肺炎の原因精査に囚われてしまった

・繰り返す感染の鑑別に、HIVの既往とCD4正常が目眩しになった

・HIV患者ではパラプロテイン(総蛋白質-アルブミン)gapが高くなることが多い

 ・HIV患者でパラプロテインgapが低値の時、液性免疫不全の合併を疑う

 

Next Step

・HIVとCD4について

f:id:nishizawa121:20200530201757j:plain

 

f:id:nishizawa121:20200530201807j:plain

 

Facebookページの登録はこちらから