築地の病院総合診療医のブログ

診断推論のケーススタディの備忘録のブログです。(病院や部門を代表したものではなく、個人的な勉強用ブログです。)

排尿後の動悸および発汗

21歳男性、4日間の腹痛、嘔気、嘔吐を訴えて救急外来に来院した。

 

 A Branching Algorithm. J Hosp Med. 2019;14(10):707‐711.
https
://mdedge-files-live.s3.us-east-2.amazonaws.com/files/s3fs-public/issues/articles/jhm014110707_0.pdf

 

 

病歴より

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#高血圧症の既往歴のある21歳の男性が4日間の腹痛、嘔気、嘔吐を訴えて救急外来に来院した。

#腹痛、嘔気、嘔吐に加えて 1ヶ月間の緩い便。また、1日中頭痛があった

#嘔気のために、彼は 2日間薬が飲めない。

#家庭用血液 過去2日間の血圧測定で収縮期血圧が200mmHgを超えた

#発熱、呼吸困難、胸痛、視力の変化、しびれ、脱力感、発汗、動悸などはない

 

・優先順位をつけて、動脈疾患、腸閉塞、臓器穿孔を含む重篤な腹腔内プロセスを除外する

・高血圧症では、若い年齢では特に二次的な原因(原発性アルドステロン症、慢性腎臓病、線維筋異形成、違法薬物使用、高コルチゾール症、褐色細胞腫、大動脈縮窄症、甲状腺中毒)を評価する必要がある

 

追加の問診より

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#16歳で高血圧症と診断、19歳パニック発作

#最近1年胃食道逆流症が原因とされる持続性の嘔気

#常用薬:メトプロロール50mg/日、アムロジピン5mg/日、ヒドロクロロチアジド12.5mg/日、エスシタロプラム20mg/日、オメプラゾール20mg/日

#父親と15歳の弟も高血圧症

#カーディーラーで働きながらアルバイトをしていた学生

#違法薬物なし、飲酒なし

 

・ 3種類の降圧薬の必要性は重症な高血圧症を示唆する

・患者自身の早期発症と家族歴は遺伝性の高血圧症を示唆

・常染色体優性多嚢胞腎では慢性腎臓病になる前に高血圧になることが多い

・家族性高アルドステロン症、リドル症候群、または褐色細胞腫の素因となる遺伝性内分泌腫瘍が遺伝性の高血圧症

・カテコラミン過剰時に吐き気や嘔吐を引き起こす

 

身体所見より

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#体温は36.4°C、心拍数は95回/分、呼吸数は18回/分、酸素飽和度100%

#血圧181/118mmHg(両腕の収縮期血圧と拡張期血圧は10mmHg以内)#2分間の立位の後、収縮期血圧と拡張期血圧にはそれぞれ20mmHg以上、10mmHg以上減少した。

#BMI 24

#第5肋間の中鎖骨線上に心尖拍動、左上胸骨境界部から頸動脈への放射するLevine 3/6の収縮期雑音

#腹部は軟、触診で全体的に圧痛あり、反跳痛なし、臓器腫大なし、血管雑音なし

#CVA巧打痛なし、リンパ節腫脹なし、

#眼底鏡・肺、皮膚、神経学的検査は正常

#WBC 13300、Hb 13.9g/dL、血小板 37、Na 142、HCO3 25、BUN 12、Cre 1.3、糖88、Ca 10.6、Alb 4.9、AST 27、ALT 37、リパーゼ 40

#尿沈渣:WBC 5-10/HPF、蛋白 10mg/dL

#心電図:左室肥大

#胸部X線撮影は正常

 

・腹膜炎、肝臓、膵臓、胆道の炎症は否定的

・三尖性逆流があればカルチノイド症候群で下痢の説明がつく

・頭痛の原因となる頭蓋内の出血の可能性は低い

・ 4.9 g/dLのアルブミンは、嘔吐、下痢による脱水による循環血漿量減少を示唆するかもしれない

・褐色細胞腫でも、利尿が進み脱水になる可能性がある

・原発性アルドステロン症の検査のために血清アルドステロンとレニン、褐色細胞腫の評価のために血漿または24時間尿中ノルメタネフリンおよびメタネフリンレベルを測定したい

 

追加検査

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#iPTH 78 (正常、10~65pg/mL) 、TSH 3.6 (正常、0.30~5.50mIU/L) 、早朝コルチゾール 4.1正常、>7.0 ug/dL) 、

#血漿アルドステロンは14.6(正常、1~16ng/dL) 、血漿レニン活性3.6ng/mL/hr(正常、0.5~3.5ng/mL/hr)、アルドステロン-レニン比4.1(正常、20未満)

#心エコー:LVHあり、弁、壁運動、近位大動脈は正常、左室駆出率は70%

#腹部骨盤の造影CTでは、前立腺に関連した5cmの不均一な増強される腫瘤があり、

#腫瘤が尿管を閉塞して右側重度の尿管拡張と水腎症

#傍大動脈のリンパ節腫大(2.8cm)、両側外腸骨リンパ節腫大(2.1cm、1.5cm)

#副腎腫大なし

 

・前立腺、膀胱、大腸がんにしては若い

・前立腺腫瘤は、感染性(例、膿瘍)または悪性(例、腺癌、小細胞がん)も鑑別

・アルドステロン-レニン比と正常なKは、原発性アルドステロン症の可能性を低くする

・ 腹痛と胃腸症状は腸の炎症、右側の尿管拡張から説明できる

・症状を一元的に説明できる疾患は褐色細胞腫であるが、CTより副腎腫瘍がないことを確認している

 

 

鑑別は?

 

 

 

 

#LDH 179、PSA 0.7

アムロジピンとラベタロールを投与し、血圧を160/100まで改善した

Cre 1.1まで改善

右腎盂は、経皮的腎瘻造設術を施行し、4日間で15Lの排尿が得られた

#経皮的腎瘻造設術の4日後、激しい頭のふらつき、発汗、動悸などを経験した(数ヶ月前と同様のエピソードだった)

#動悸および発汗は、排尿後にのみ発現する。

 

・排尿は骨盤の腫瘤に刺激を引き起こし、カテコールアミンの分泌を引き起こしたと考えられる

・放尿に伴う神経心原性反射も鑑別

 

 

診断に迫る検査は?

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#血漿中のメタネフリンは0.2 nmol/L(正常、0.5 nmol/L未満)、血漿中のノルメタネフリンは34.6 nmol/L(正常、0.9 nmol/L未満)

#尿中メタネフリンは72 ug/24時間(正常、0~300 ug/24時間)、ノルメタネフリン8,511 ug/24時間(正常、50~800 ug/24時間)

 

(症状を一元的に説明できる疾患は褐色細胞腫であるが、CTより副腎腫瘍がないことを確認している)

・したがって、傍神経節腫からのカテコラミンリリースが最も考えられる

・機能的画像診断または腫瘤や隣接するリンパ節の検査が適応

・カテコラミン漏出による血管収縮を防ぐために、生検前にα-アドレナリン受容体拮抗薬で治療すべき

 

 

#リンパ節生検でクロモグラニンAとシナプトフィシン陽性となり、転移性傍神経節腫が判明

#FDG-PETで頭蓋骨転移が認められた

フェノキシベンザミン、アムロジピン、ラベタロールで治療した。

骨盤腫瘤の外科的切除が検討されたが、切除が困難であり、回腸尿管を必要とするため、手術を躊躇した

#母方の叔父が頸動脈傍神経節腫と診断されていたことが判明した

遺伝子検査でコハク酸脱水素酵素複合体サブユニットB(SDHB)が同定され、遺伝性傍神経節腫症候群(HPGL)と診断された

 

転機

1年後、肝臓と肺転移を発症しランレオチド(ソマトスタチンアナログ)、カペシタビン、テモゾロミドを受けた

緩和を目的とした開頭手術と放射線治療を行なったが、患者は2年も経たないうちに死亡した

 

 

Teaching points

二次性高血圧について

  • 30歳未満での高血圧の発症、3種類以上の薬物療法に対する抵抗性、または年齢にかかわらず急性発症の高血圧は、二次的原因の評価を促すべきである
  • 二次性高血圧の有病率は、18~40歳の高血圧患者では約30%であるのに対し、成人の高血圧患者では5~10%
  • 二次性高血圧の最も一般的な病因は原発性アルドステロン症、若年成人(19歳から39歳まで)では腎血管疾患や腎実質疾患が一般的である
  • その他、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、薬、覚せい剤(コカインとアンフェタミン)、および甲状腺中毒症、クッシング症候群、カテコラミン分泌腫瘍などの内分泌疾患が原因である

傍神経節腫について

  • 傍神経節腫は末梢自律神経系に発生する腫瘍。これらの新生物は傍脊椎および大動脈軸に沿った交感神経と副交感神経から発生する
  • 頭頸部の傍神経節腫は無症候性であり、一般的には腫瘤の増大により発見される
  • カテコールアミンを分泌する傍神経節腫のサブセットは、最も多くの場合、腹部および骨盤に発生し、臨床症状は褐色細胞腫と類似している。
  • 膀胱傍神経節腫の他の症例には排尿に関連する症状や高血圧症のエピソードを認める
  • カテコラミン分泌性腫瘍では、 頭痛(60〜80%)、頻脈・動悸(50~70%)、不安(20~40%)、嘔気(20~25%)、その他、発汗、顔面蒼白、呼吸困難、およびめまいをきたす
  • 傍神経節腫や褐色細胞腫は、血漿遊離か24時間尿中分画メタネフリン(感度、特異度共に90%以上)が有用である
  • FDG-PET、Ga-DOTATATE-PET、または123I-MIBGを用いたイメージングは、診断をさらに確認し、遠隔転移を検出することができるが、感度が低いため転移が疑われる患者にのみ考慮すべき
  • 褐色細胞腫は散発性であるが、傍神経節腫の40%は生殖細胞の病原性変異(コハク酸脱水素酵素(SDH)グループの変異が原因)によるもの
  • 傍神経節腫および褐色細胞腫のほとんどは局所的で良性だが、10%~15%は転移性である
  • 褐色細胞腫または傍神経節腫を有する患者で、リスクのある家族を見つけるために遺伝子検査が進められる

 

 

振り返り

・腹痛、嘔気、嘔吐、軟便、頭痛は非特異的であるが、若年性の高血圧症でemergencyな疾患を想起するべきであった

 

 

 

 

Next Step

・カーニーストラタキスの二徴(傍神経節腫とGIST)

・カーニーの三徴(傍神経節腫とGIST、肺軟骨腫) 参考 

 

 

 

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